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志史が恐る恐る言うと、六華が頷いた。
「赤いバラはそうですね」
「赤い?」
志史は鸚鵡返しに言って首を傾げる。
「じゃ、黒は違うんですか?」
「ええ。黒に限らず、バラは色によって花言葉が違うんです。バラ全体は、さっきそちらの……えっと」
六華に目を向けられた志史は、居住まいを正した。
「あ、柊です」
「ありがとうございます。柊さんが仰ったように、バラという種全体の花言葉は、『愛』と『美』です。その他各色によって、例えば赤は『あなたを愛してます』のほか、『愛情』『情熱』『熱烈な恋』『美貌』、白なら『純潔』や『あなたは私にふさわしい』とか、『深い尊敬』『清純』『心からの尊敬』などがあります」
「じゃ、ちなみに……黒は?」
すると青年は、クスッと意味ありげに笑って答えた。
「黒バラの場合、三つほどあるんですよ。『あなたはあくまで私のもの』と『決して滅びることのない愛』、そして『永遠の愛』」
志史は、改めてゾッとしたが、同時にチラッと黒い花束に目を向けてしまう。恐ろしさのあまり、見るまいとするのに却って視線が吸い寄せられるようだ。
「それと、本数にも意味があるんです。送り主はそれとの複合で愛の告白をしてるつもりだったんでしょうね。ベタですけど」
「ベ、ベタって……」
ベタも何も、色や本数によって花言葉が違うなど、知っている人は少ないだろう。そもそも、自分の正体を明かさずに愛の告白なんて、一歩間違えば立派にストーカーだ。
「それじゃ、本数の意味って?」
興味深げに彩音が身を乗り出す。
「一本だと、『一目惚れ』と『あなたしかいない』です。送り主は恐らく柊さんに一目惚れした挙げ句、あなたしかいないと思い詰めたんでしょう」
志史は、何とも言えない気分でげっそりした。
志史の前に顔も出さずに一目惚れだ何だと告白されても、嬉しくも何ともない。それこそ、例えるなら名乗りを上げない電話で、『あなたを好きになりました』と言われるのと同じだろう。
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