バラの告白~言ノ華《ことのは》探偵・六華《りっか》~

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 さすがに、六華の整った顔も曇っている。 「ちなみに、十三本目から二十本は?」 「十三本と十五本以外は、やっぱり聞いたことがないですね。十三本は『永遠の友情』で、純粋な愛情系からは若干外れて聞こえます。十五本は、『ごめんなさい』ですからまあ、色んな意味に取れますけど……」 「それだ!」 「へ?」  彩音が人差し指を立てて志史を見た。 「あの……どういう意味で?」 「だからぁ、相手は花言葉で告白してるつもりなんでしょ? だったらこっちも花言葉でお断りするのよ、『ごめんなさい』って!」 「はあ……」  それで引き下がってくれる相手だろうか。  志史にはどうしても、黒いバラの、最初の花言葉が引っかかっている。かなり執着めいた花言葉だ。  すると、六華も同じことを言った。 「それで引き下がってくれますかねぇ」  ほわーんとした口調だったが、彩音も途端に怯んだ顔になる。 「そりゃっ……」  引き下がってくれるに決まってるじゃないですか、とはとても続けられなかったようで、上げていた手をノロノロと下ろした。  しばしの沈黙ののち、六華が真剣な顔をこちらへ向ける。 「柊さん」 「はい」 「柊さんのお住まい、セキュリティはどうなってます?」 「え、えっと……一昔前って感じです」 「つまり、最低限の鍵しか付いてない、防犯カメラもないってことですか?」 「はい」 「今時珍しいね、セキュリティ緩すぎない?」  言ったのは、彩音だ。 「だからこそ、自宅前にこっそり花束を置くなんていう、ある意味古風な告白も実行できたんでしょうけど……」 「古風通り越してますよっ! 花言葉なんて一部の人にしか通じないのに、フツーに怖いです!」  彩音は、まるで自分が花束を送られたように、自分を抱きしめて一つ身を震わせた。 「石倉さん、今一人暮らしでしたっけ?」 「えっ、あっ、はいっ」 「じゃあ、当分彼女泊めてあげてくれませんか」  唐突にも思える提案に、志史は恐縮し、どちらを向いたらいいか分からなくなる。しかし、彩音はほぼ即答で、「いーよいーよ、おいで」と言った。まさに二つ返事だ。
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