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しきりに遠慮する志史の家に、まず半ば強引に、共に荷物を取りに行き、次に彩音の自宅へ引きずられて行った。
仰天したのは翌日だ。
何とその日の朝、彩音の家の前に花束が置かれていた。
彩音は唖然としていただけのようだったが、志史はもう震え上がった。
「いやーダメ……もう完璧バラの花束恐怖症になりそう……」
志史は顔を覆って俯く。
その傍で、彩音は無言で携帯端末を取った。
「あ、もしもし店長? 朝早くすいません。何かウチの前に例の花束あるんですけどー」
『本当ですか? 確か、石倉さんの住んでるマンション、オートロックですよね』
スピーカーフォンにしたのか、六華の声が志史にも聞こえる。
「そうなんですよー、もう立派なストーカーですね」
『ちなみに、何の花束ですか?』
「バラです。本数はちょっととっさには分かりません。ものすっごく沢山あるんで」
『色は?』
「黒です」
『そうですか……じゃ、一旦切りますね。数えたらその時点で連絡ください』
「りょーかいでっす」
彩音は通話を切ると、その場でさっさとラッピングを解いて広げた。
数えた結果は百一本――六華によると、意味は『これ以上ないほど愛しています』だった。
軽くパニックを起こした志史は、その日は大学を休んだ。とても、普段通りに行動する気になれなかった。
彩音の家とは言え、ストーカーはその場所も知っている。
彩音のマンションの住人という可能性も捨て切れないから、とこの日は一日、六華の店にいることになった。
「……どうぞ」
喫茶店エリアで、古書エリアから買った本を読んでいると、オーダーしていないのに飲み物が供された。
上げた視線の先にいたのは、川村だ。
「あの……でも」
「僕のおごりです」
会釈した川村は、「あと、これ」と言いながら、テーブルの空いたスペースに花束を置いた。
白いバラで、やはり本数は無数だ。パッと目分量で数えろと言われても難しい。
「……何ですか?」
「白バラの花言葉の一つに『あなたは私に相応しい』があるのは、昨日店長が仰ってたのでご存知でしょう?」
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