バラの告白~言ノ華《ことのは》探偵・六華《りっか》~

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 (ひいらぎ)志史(しふみ)は、ハテナ、と思った。  普段と変わらず大学へ行き、普段と同じように一人暮らしのアパートへ戻ってきて、玄関にラッピングされたバラの花が一輪鎮座していたら、誰だって首を傾げるだろう。  今朝、家を出る時は確かになかった。 (何だろ)  そうは思ったが、深くは考えなかった。  鍵を解除しドアを開け、バラも一緒に持って入る。志史の自宅玄関に立て掛けてあったのだから、自分に贈られたものだろうし、花に罪はないと思ったからだ。  明かりを灯した室内で見たそのバラは、見事な赤色だった。  翌日の帰宅時にも、同様のことが起こった。  違っていたのは、バラの本数だ。昨晩は一本だったのが、今日は三本。  明かりの下で確認すると、やはり色は赤だ。  その次の日も、そのまた次の日も、帰宅時にはバラが迎えてくれた。三本になった日から、バラの本数は一本ずつ増えていく。  送り主の分からないバラが届くようになってから七日目、本数が九本になると、何やら気味が悪くなってきた。  到底、そのバラを室内へ入れる気になれず、志史はその日はバラを外へ放置したまま家へ入った。  翌日、玄関前の通路に放置していたバラはそのままだった。しかし、よく見てみると、本数が増えている気がする。  昨晩の時点で九本だったはずのバラは、十二本になっていた。 *** 「すみませーん」  十二本になったバラの花束を抱え、道行く人からわけの分からない注目を浴びながら、アパートから一番近い花屋に辿り着いた志史は、まだ開店前の花屋の奥へ声を掛けた。 「はーい」  すぐに返答があり、店内から従業員と思しき女性が走り出してくる。 「すみません、まだ開店前なんですが……」 「分かってます、あの……本当に厚かましいお願いなんですが、これ、引き取っていただくことはできますか?」  志史は、手にしていた花束を、女性にズイと差し出した。  もちろん、『店で扱ったかも分からない花束を引き取る』という業務はないのだろう。女性は唖然としたあと、困った顔になって沈黙した。
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