26人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
柊志史は、ハテナ、と思った。
普段と変わらず大学へ行き、普段と同じように一人暮らしのアパートへ戻ってきて、玄関にラッピングされたバラの花が一輪鎮座していたら、誰だって首を傾げるだろう。
今朝、家を出る時は確かになかった。
(何だろ)
そうは思ったが、深くは考えなかった。
鍵を解除しドアを開け、バラも一緒に持って入る。志史の自宅玄関に立て掛けてあったのだから、自分に贈られたものだろうし、花に罪はないと思ったからだ。
明かりを灯した室内で見たそのバラは、見事な赤色だった。
翌日の帰宅時にも、同様のことが起こった。
違っていたのは、バラの本数だ。昨晩は一本だったのが、今日は三本。
明かりの下で確認すると、やはり色は赤だ。
その次の日も、そのまた次の日も、帰宅時にはバラが迎えてくれた。三本になった日から、バラの本数は一本ずつ増えていく。
送り主の分からないバラが届くようになってから七日目、本数が九本になると、何やら気味が悪くなってきた。
到底、そのバラを室内へ入れる気になれず、志史はその日はバラを外へ放置したまま家へ入った。
翌日、玄関前の通路に放置していたバラはそのままだった。しかし、よく見てみると、本数が増えている気がする。
昨晩の時点で九本だったはずのバラは、十二本になっていた。
***
「すみませーん」
十二本になったバラの花束を抱え、道行く人からわけの分からない注目を浴びながら、アパートから一番近い花屋に辿り着いた志史は、まだ開店前の花屋の奥へ声を掛けた。
「はーい」
すぐに返答があり、店内から従業員と思しき女性が走り出してくる。
「すみません、まだ開店前なんですが……」
「分かってます、あの……本当に厚かましいお願いなんですが、これ、引き取っていただくことはできますか?」
志史は、手にしていた花束を、女性にズイと差し出した。
もちろん、『店で扱ったかも分からない花束を引き取る』という業務はないのだろう。女性は唖然としたあと、困った顔になって沈黙した。
最初のコメントを投稿しよう!