071 : 明滅

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私達は、それからも懸命にドミニクを説得した。 しかし、ドミニクは頑なにそれを拒否した。 自分は父親の資格がない、カトリーヌに合わせる顔が無いということを繰り返すばかりだった。 「あんたはそう言うが、カトリーヌは、ずっとあんたのことを父親と慕い続けて来たんだぜ。」 「カトリーヌはきっと、俺がどんなことをやらかしたのか知らないんだ。 マリーは誰にも本当のことを話さなかったんだろう。 話せるはずなんてないよな。 カトリーヌだって、本当のことを知ったら、きっと、俺に会いたいなんて思わないはずだ。」 残念ながら、実際のところはわからない。 ドミニクの言う通りなのだとすれば、確かにカトリーヌの気持ちも変わるかもしれない。 浮気をして、大切な金まで持ち出したのだから。 「そういえば、浮気相手とはどうなったんだ?」 「さっきも言った通り、魔が差しただけなんだ。 何も本気で惚れたわけじゃない。 だから、町を出る時にも誘わなかった。 今じゃあ、名前さえ思い出さないよ。」 「なんてこった。じゃあ、町を出ずに、奥さんに謝れば良かったのに。」 「……そうかもしれないな。 だけど、その時の俺には謝る勇気がなかった。 元はと言えば、俺が浮気してることを酒場の下働きの婆さんがマリーに話したからなんだが… マリーは、泣きながら俺を問いただした。 浮気してるのは本当なのか、と。 そうだ、その時に謝るべきだったんだ。 頭を地べたにこすりつけてでも、心からマリーに謝るべきだった。 でも、俺はその言葉に開き直り、逆に怒鳴り散らかした。 本当はそんなことしたくなかったのに… 若かったのか、なんだったのかわからないが、俺は、素直になれなかったんだ。 本当に馬鹿だったよ…」 ドミニクはまた涙を流し始めた。 窓際のランプが、明滅を繰り返す。 外の冷たい風のせいか、油が足りないのか。 灯りは今にも消えそうで…まるで、涙を拭うドミニクの辛い心情を表しているようだった。
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