お飾り王妃ですが、隣国の公爵様に連れ出されました

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「健気だねぇ。……ますます気に入った。じゃあさ、王妃様。王妃様がフロイデン王国に来るっていうのならば……俺はフロイデンの国王陛下と掛け合ってやる。……ヴェッセル王国を攻めるのは、止めてほしいって。だけど、王妃様がもしもここで俺を拒んだら……問答無用で、攻め入るから。交渉は決裂したって言っておく」 「っつ!」  そんな。私は、そう思っていた。この人は、なんという人なのだろうか。人の気持ちも考えないで。そんなことをおっしゃる。でも、もしも私一人がフロイデン王国に向かえば? 私が、虐げられることは別に構わない。というか慣れている。それで、民が救えるのならば。だったら、それ以上に良いことは、ないだろう。そう、思った。 「……わ、私……」  でも、私は決心がつかなくて。ただ、俯いてそういうことしか出来なかった。後ろから、イーノク様の「フライア! わかっているだろうな!」というような脅しの声も聞こえてきた。……前までの私だったら、その脅しに怯えていただろう。だけど、私は……もう、怯えなかった。しかも、その脅しが私に決意をくれた。 「……私、フロイデン王国に向かいますわ。……私を、連れて行ってくださいませ」 「フライア!」  イーノク様の、そんな焦りと怒りがこもったような声が、耳に届いた。でも、もう気持ちは変わらない。私は、ゆっくりとブラッド様の差し出された手に自身の手を重ねた。その瞬間、ブラッド様がにやりと笑われる。そして、そのままソファーに倒れこんでいた私を、引き起こしてくださった。 「じゃあ、そういうわけだから。……おい、馬車の準備をしろ。帰るぞ」 「はっ!」  ブラッド様が連れてこられた従者の方が、そんな風に勢いよくブラッド様のお言葉に返事をする。そして、応接間を立ち去る。……本当に、これでヴェッセル王国は攻め入られないのよね? そういう意味を込めて、私はブラッド様の真っ赤な瞳を見つめていた。 「……王妃様の心配するようなことは、ない。……俺は約束は守る人間だからな」 「……そう、ですか」  ブラッド様と私は、出会ったばかりだ。だけれど……イーノク様よりも、ずっと信じられると思った。だから、私はそれ以上何も言わなかった。 「じゃあな、国王様。……あんたはせいぜい側妃と幸せになるんだな。……ま、破滅の道もありっちゃありだし」 「おい!」 「あ~、もうあんたと話すことはないから。……じゃ、俺らは帰るわ。……もう二度と会うことがないように、願っている」  そんなことをおっしゃったブラッド様は、私の腕を引いて、そのまま応接間を出ていった。その掴まれた腕が、熱い気がしたのは……きっと、気のせいでないのだろう。 (……これで、よかったのよね)  私は、そんなことを心の奥底で思っていた。
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