お飾り王妃ですが、他国に連行?されています

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 私は半ば無理やりフロイデン王国から、乗ってきたのであろう馬車に押し込まれる。ブラッド様がその後馬車に乗り込むと扉が閉まり、ブラッド様の合図で馬車が走り出す。そんな非日常的なことに、私は戸惑っていた。……これは、都合のいい夢、なのでしょうか? そう、思っていた。ずっと、心の底では誰かが私のことを助け出してくれるのではないか。絵本のように、王子様が私を救ってくれるのではないか。そう、思っていたから。 (……でも、きっとフロイデン王国でも私の扱いは良いはずがないわ)  この人が、どうして私を母国に連れて帰ろうとしたのかは、分からない。もしかしたら、いい扱いをしてくれるかもしれない。そう、一瞬だけ期待したけれど、そう思った心を切り捨てる。きっと、ここ何年も仕事ばかりの毎日を過ごしてきたからでしょう。私の心は荒み切っており、人を信じることが出来なくなっていた。 「王妃様……ってか、もうこの呼び方も変だな。これからはフライアって呼ぶわ」  対するブラッド様は、そんなことをおっしゃいながら、私の顔を覗き込んでこられる。その真っ赤な瞳と私の視線が交わり、どうしようなく恥ずかしくなった。私は、異性と見つめ合ったことさえない。はっきりと言えば、恋愛経験はゼロどころかマイナスなのだ。キスだって、結婚式の時の一度きり。そもそもな話、イーノク様は私には触れようとしなかったから。 「ブラッド、様……」  恐る恐る、その名を呼ぶ。先程まで、普通に呼べていたというのに。今になって、普通に呼べなくなる。声が震えてしまう。  ……この人は、理不尽に怒ったりしないだろうか? 気に食わない、と私に暴言を浴びせてこないだろうか? ストレス発散、とばかりに私に暴力をふるったりしないだろうか? そう思って、ブラッド様を疑ってしまう。 「うん? 何、フライア?」  だけど、ブラッド様から発せられる声は、とても優しそうで。……今まで、そんな声音で私に話しかけてくれたのは、騎士団の人たちだけだった。だからこそ、息をのんでしまう。……信じたい。そう思う気持ちと、「これは油断させるための罠だ」という相反する気持ちが、私の中に芽生えていく。 「い、いいえ……なんでも、ありません……」  私は、それだけ言うのが精いっぱいだった。王妃として、堂々と振る舞っているときはこんな風にはならない。しかし、ただのフライアとなってしまえば、あんな風に堂々とすることは出来ない。……ただ、毎日を怯えて過ごすだけの、哀れな二十二歳の女性に戻るのだ。
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