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「フライア様。こちらなど、いかがでしょうか?」
それから約一時間後。私は、私の専属となったという二人の侍女により、何故か着せ替えをされていました。とはいっても、ドレスはすべてオーダーメイドではなく、先代のルーベンス公爵夫人のお下がり。とりあえず、それをリメイクして着ておけ、ということらしいです。
私は、数々のドレスを見つめてみる。小さな宝石が散りばめられた派手なドレスから、比較的シンプルなデザインのものまで所狭しと床に並べられている。先代のルーベンス公爵夫人はフロイデン王国の社交界で、ファッションリーダーだったらしく、数多のドレスを持っているそうです。しかし、隠居を機にドレスやアクセサリー集めは止められたそう。そして、仕立てたドレスがすべて高価なものだった為、いずれ来るであろうブラッド様のお嫁さんのために保管しておいたそうです。……今、この二人の侍女から聞いたことですが。
「とりあえず、お化粧をしましょうね」
そう言って、私を鏡台の前の椅子に座らせるのは、黒色の髪をお団子にした侍女のグレッタ。グレッタは器用に私にお化粧を施していく。そんな様子を、私はただ鏡越しに見つめておりました。
「グレッタ。とりあえずメインのドレスはこれでいい?」
そんな風にグレッタに声をかけるのは、真っ赤な髪が特徴的なもう一人の私専属の侍女、イルゼ。イルゼはイエローの比較的シンプルなデザインのドレスを持ちながら、グレッタにそう問いかけています。
「えぇ、それが良いわ。フライア様はきっとシンプルなものの方が似合うもの」
侍女二人の会話を、どこか他人事のように聞きながら、私は茫然としていました。……こんな風に、綺麗に見えるように、と自分を着飾るのは一体いつぶりだろうか。下手をすれば、公爵令嬢時代にまでさかのぼらなければならないかもしれない。そんなことを思って、自分が情けなくなる。公務の時は最低限着飾ってはいたものの、それでもシンディ様が普段身に着けているドレスよりもずっと質素なものだったから。
鏡に映る私は、とても綺麗に見えた。今まで、目の下の隈を隠すためにお化粧をしてきた。しかし、それとは全く違うタイプのお化粧。それは、間違いなく自分を輝かせるためにするもの。機能性を重視したものではない。
この二人は、どうやら私のことを「ブラッド様の恋人」と思っているらしい。いいや、この二人だけじゃない。侍女長さんもそうだった。ブラッド様は、今まで婚約者どころか恋人さえもいなかったらしい。……これも、イルゼとグレッタに聞いたことだ。この二人は、どうやらとてもおしゃべりな性格のようだった。
「フライア様。とてもお綺麗ですわ」
その後、しばらくして私の変身が完了した。その証拠に、グレッタがそう言って褒めてくれる。……こんな風に、着飾ったこと自体が久々で、私は感動してしまった。……いいや、それだけじゃない。私は、今まで虐げられることはたくさんあった。しかし、優しくされたのは数少ない。私に好意的だったのは、騎士団の人たちとごく一部の貴族だけだったから。
「さぁ、ブラッド様に見せに行きましょうね」
イルゼにそう言われて、私はただ静かにうなずく。そして、イルゼに背中を押されてお部屋を出ていった。どうやら、このお部屋のお隣のお部屋が、ブラッド様の私室。さらにそのお隣が、ブラッド様の仕事部屋らしい。今は、仕事部屋にいらっしゃるらしく、イルゼはそのお部屋の扉の前まで私を押していった。
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