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「旦那様、イルゼです。フライア様のお着替えが終わりました」
そんな風にイルゼが扉越しに声をかけると、すぐに「入れ」という声が聞こえてくる。その声を聞いたイルゼは、すぐに扉を開いた。ブラッド様の仕事部屋だというお部屋は、ほぼ壁一面本棚だった。所狭しと並べられた分厚い本。背表紙を見るに、そのほとんどが経営学のものだった。……私は、そっち方面にも知識があるのだ。
ブラッド様は、お部屋の最奥にいらっしゃった。そして、私を品定めするような視線で、頭の上からつま先まで、見つめる。……居心地が、悪い。そう思った。しかし、そんな私の気持ちを一切知らないグレッタとイルゼは、さっさとお部屋を出ていく。最後に「頑張ってくださいね!」という的外れな言葉を残して。……いや、何を頑張るというのだろうか。
「フライア、化けたな」
しかも、ブラッド様の一言目は、そんなお言葉だった。普通のご令嬢に言ったら、平手打ちをされてもおかしくないであろうお言葉。だけど、私は平手打ちをしようとも思わなかったし、怒りも特にこみあげてこなかった。ただ、失礼だなぁ、と思うぐらいだった。
「ま、いいんじゃね。これだったら、フロイデンの社交界にも立派に出られるな」
「……はい?」
さらに言えば、そんな事よりもずっと重要なことを、ブラッド様はおっしゃった。……フロイデン王国の、社交界? 意味が、分からない。というか、私はそこに出る必要など……。
「あ、言い忘れてたけど、お前これから俺の婚約者な。次期ルーベンス公爵夫人だ」
「……は、はいぃ?」
私は、ブラッド様のお言葉に、ただ間抜けな返事をすることしか出来なかった。
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