お飾り王妃ですが、隣国の公爵様と出逢いました

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 ――お飾り王妃。  貴族たちは、私のことを見てそういう。その瞳に込められた感情は、嘲笑、侮蔑などであり、好意的なものは一切ない。それでも、私は平民たちのために、王妃としての仕事を全うしていた。平民たちの暮らしを、少しでも豊かにしたい。その一心だった。 「王妃様。少々よろしいでしょうか?」  そう言って、一人の女官が私の仕事部屋に入ってくる。彼女は、まだ私に好意的な子だ。そう思いながら、ただ静かに私は「どうぞ」と言っていた。言っちゃあなんだけれど、私は使用人や大臣たちから疎まれている。大臣たちは私の行う平民向けの政策をバカにするし、使用人たちは寵妃……つまり、側妃の味方ばかり。しかも、側妃が私に虐められている、という噂を流しているため、私は王宮内で孤立気味だった。 「実は、近隣のフロイデン王国からお客様がいらっしゃっておりまして……。陛下に相談したところ、王妃様に応対してもらえ、ということでした」  女官の言葉を聞いて、私は内心でため息をついていた。この国の国王陛下と結婚して、早二年。私の旦那様である国王陛下、イーノク・ヴェッセル様は、ダメな国王陛下だ。寵妃であり聖女であるシンディ様に溺れ、仕事を蔑ろにする。寵妃を愛するのは別に構わない。しかし、仕事だけはしてほしい、と抗議したことがあった。でも、イーノク様に私の言葉は響かなかったようで。むしろ、嫌がらせとばかりに私の仕事を倍増させた。それ以来、私はもう諦めている。あの人に、仕事をさせるということを。 「……そう、分かったわ。お客様を応接間にご案内して頂戴。……私が、応対するわ」 「はい、わかりました」  女官に指示を出し、私は目の前の資料を片付け始める。  二十二歳。本当だったら、女として輝いている時期だったはずなのだ。しかし、私はイーノク様に相手にされていないし、仕事三昧の日々。跡継ぎもどうせ寵妃であるシンディ様との子になるだろうから、私はべつに愛されなくても構わないのだけれど。むしろ、生まれてきた子供が冷遇されるぐらいならば、子はいない方が良いわ。 (……はぁ、頭が痛いわ)  思わず、そう心の中でつぶやいて、頭を押さえてしまう。最近、頭痛がひどい。これも、過労の所為かな。そう思ったけれど、誰も私を労わってくれないから、仕方がない。実家である公爵家から連れてきた侍従は、みなイーノク様がクビにしてしまった。曰く、シンディ様を虐めるから、だそうだ。……あの子たちはとても優秀だから、そんなことをするわけがないのに。どこまでも愛に狂った愚かな国王陛下だわ。そう、私は心の中でつぶやく。 「さて、フロイデン王国からのお客様は……」  女官が置いていってくれたお客様の資料を見つめながら、私はそうつぶやく。いらっしゃっているのはフロイデン王国の筆頭公爵家、ルーベンス公爵家の当主様らしい。なんでも、こちらにご提案があるそうだ。……はぁ、なんだか会いたくないわ。そう思ったけれど、私が応対しなくては、誰が応対するというのだろうか。そう思って、私は自らを奮い立たせるのだった。 **
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