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「ははっ、フライア今、間抜けな声上げた」
「ま、間抜けも何も、そんなことを一言も聞いておりませんから!」
私は、ただそうやって抗議の声を上げる。だって、私はまだ一応イーノク様の妻のはずで……! 離縁の書類を書いた覚えもありません。さらに言えば、王家の人間が離縁したという前例などなくて……!
「前例がないのならば、作ればいい。さらに言えば、書類はここにある」
そうおっしゃって、ブラッド様は何かの書類の束を私に投げ渡してくださいました。私は、その書類の束をペラペラとめくりながら、じっくりと見つめてみる。……確かに、離縁の書類だわ。さらに言えば、その後ろにはフロイデン王国のものであろう婚約の書類まである。……この人、本気なんだ……。
「……どうして、この書類を……」
さらに言えば、もう離縁は成立しているようでした。……私が、フロイデン王国に向かっている間に、何があったのでしょうか? 私は、そう思ってしまいました。ぎゅっと書類を握り締めながら、私はただその書類を見つめる。……今までの私の苦労は、この書類だけで、消えてしまったのですね。そう思うと、何故か笑いがこみあげてきてしまう。
「ま、いろいろあるんだよ。あの国王をちょーっと脅せば、普通に書いてくれたけどな」
ブラッド様は、そんなことをおっしゃって私から書類の束を取り上げる。私は、ただ茫然としていることしか出来ませんでした。……つまり、私はもう王妃でも何でもない、ということなのですね。ただの、フライアに戻ったのでしょう。じゃあ、もう私に帰る場所はないのですね。ディールス公爵家の現当主であるお兄様とも、疎遠ですし。それを実感した時、今更ながらに涙が少しだけ出てきた。……今までの私の苦労は、何だったのだろうか。何のために、行動していたのだろうか。そう、思った。
「じゃあ、そういうことだ。俺はこれからフライアの婚約者になったから。だから、これからよろしくな」
そうおっしゃったブラッド様は、とても良い笑みを浮かべておられました。……ブラッド様が、これからの私の婚約者……? そりゃあ、イーノク様よりはずっといい人だとは思っておりますが……。それでも、私は男性が怖い。イーノク様のことが、あるから。
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