お飾り王妃ですら、なくなったそうです

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 そんな私の気持ちなど全く知らないブラッド様は、私の方にご自身の顔をグッと近づけてこられる。その端正な顔が、私の視界を支配する。……イーノク様よりも、ずっとかっこいい人だ。イーノク様は中の上ぐらいの容姿だったけれど、ブラッド様は明らかに上の上ぐらいの容姿をしている。 「フライア。お前はもう王妃でも何でもない。ただの、俺の婚約者だ。だからな、もう何にも縛られることはないんだ。……じゃ、そういうことだから」  ブラッド様は、それだけおっしゃると、私の元から離れられる。そのお姿を、私はただ茫然と見つめることしか出来ませんでした。……この人は、やっぱり何なのだろうか。出会ったばかりの私を攫うようにして、母国に連れて帰ってきた。さらに言えば、その婚約者にするなど、普通では考えられない。勝手に離縁の手続きもされていた。そして、新しい婚約の手続きも。 「……ブラッド、様……」  私は、静かにその名を呼ぶ。すると、ブラッド様にはしっかりと聞こえていたのか、ブラッド様は私の方に視線を向けてこられた。そして、何を思われたのか私にまた近づいてこられる。……何か、あるの? 名前を呼んだのは私なのに、そう思ってしまう。 「あ、言い忘れていたけどさ、フライア。……その恰好、似合っている」 「っつ!」  私の耳元で、囁くようにそんな言葉をおっしゃるブラッド様。その言葉と声に……私は、どきりとした。心臓が、バクバクとうるさい。……こんなの、間違いなく反則である。お父様が亡くなって以来、私にそんな言葉をかけてくれる男性は、いなかった。騎士団の人たちは好意的だったけれど、私は王妃だったから気軽には言葉をかけてくれなかったもの。 「何? 照れたの?」  思わず座り込んでしまう私を見て、ブラッド様はクスクスと笑われる。その笑みが、どこか少年のような無邪気さを含んでいるように、私には見えてしまった。だから……私は、ただ床に視線を向けることしか出来なかった。  ……こんなの、ずるい。反則だし、ずるくて、ずるくて。私じゃ……異性に免疫のない私じゃ、耐えられない。 「そう言う反応をするってことは、かなり初心な感じ? まぁ、どっちでもいいや。……フライア。お前が、今まで苦しんできたことはよーくわかっているつもりだよ。だから――」  ――俺が、お前をとことん甘やかしてやるから、覚悟しておけ。  ブラッド様は、床に座り込む私を見て、そんなことをおっしゃるのだった。
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