お飾り王妃の次は公爵様の婚約者だそうです

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**  それからの日々は、とにかく多忙でした。フロイデン王国の社交界でのマナーを学び、王国の歴史を学び、公爵家の歴史を学ぶ。ダンスレッスンなどの次期公爵夫人としての数々の教育。ヴェッセル王国の社交界とは全く違うマナーやダンスに、初めこそ戸惑っていた私でしたが、何とかこなし始めていました。 「では、フライア様。本日はここまでに致しましょう」 「はい、ありがとうございました」  家庭教師の言葉に、私はそれだけを返す。ブラッド様が雇われたという家庭教師の方々は、とても親切にしてくださいます。さらに言えば、このルーベンス公爵家の使用人の方々もとてもお優しいです。どこの女かもわからない私を、歓迎してくださっているのですから。ヴェッセル王国にいたころとは大違いの環境に、私は度々これが夢ではないのかと思ってしまいます。ですが、何度目覚めてもこの夢が覚めることはない。……ずっと、この夢の中だったらいいのに。そうとさえ思ってしまっていた。 「おーい、フライア」 「……ブラッド様」  家庭教師の方がお部屋を後にすると、ブラッド様が入れ替わりでこのお部屋に入ってこられました。いつものようにずかずかとお部屋に入ってこられるブラッド様。淑女のお部屋に許可もなく勝手に入ってきていいわけがない、と言いたかった私ですが、このお屋敷の所有者はブラッド様。私が口出ししていいことではありません。 「お仕事はどうされたのですか?」  私が気になったことをそのまま尋ねれば、ブラッド様はなんの悪びれもなく「ちょっと休憩中ー」などとおっしゃいます。ブラッド様のおっしゃる休憩中は、大体がサボっているときです。それはここ数日でよーく学びました。 「また、執事を困らせているのではありませんか?」 「良いんだよ。また俺のこと捜しまわって慌ててるだろうけど、婚約者との時間の方が大切だろ?」 「……本当に、変なお方」  ブラッド様のお言葉に、私はただそれだけを返す。目の前の本を片付けながら、私はお部屋のソファーで寛ぐブラッド様をこっそりと盗み見ておりました。とても整った顔立ちのこのお方は、どうして私を婚約者にされたのでしょうか? ブラッド様ぐらいになれば、きっとたくさんの女性が放っておかないでしょうに。わざわざ、他国の王妃を妻にする必要などない。そう思っていると、ブラッド様はテーブルの上に置いてあったクッキーに手を伸ばされる。……お腹でも、空いていらっしゃるのでしょうか?
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