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「フライア、片付け終わった?」
そして、ブラッド様はクッキーをつままれながら、そんなことを私に尋ねてきます。そのクッキーはグレッタがお勉強の終わりに、と置いて行ってくれたものなのですが。まぁ、良いです。そう思いながら、私はブラッド様の向かい側のソファーに座りました。そして、クッキーをつまみます。
ほのかに甘いクッキーは、ヴェッセル王国の物とは全く違った。でも、私はこっちの方が好きかもしれません。そう思いながら私はクッキーを、ちびちびと食べる。すると、ブラッド様は不満そうに声を上げられました。
「なんでそっちに座るの?」
……なんで、と問われましても。普通、二人で座る場合は対面で座るのが普通だと思います。わざわざお隣に腰を下ろす必要性も感じられない。さらに言えば、お隣に腰を下ろせば場所が狭くなってしまいます。ブラッド様が寛いでおられるところに、私が邪魔するわけにもいきませんし。
「対面で座るのが普通だからです。お隣に座ると、窮屈ですから。……何か、問題がありました?」
私はそれだけを返します。そんな私の言葉を聞いたブラッド様は、突然小さくため息をつかれると、おもむろに立ち上がられ私のお隣に移動されてきました。……もしかして、お隣に座るのがフロイデン王国での普通だったのでしょうか? もしも、そうだったとしたら……私は失礼なことをしてしまいましたよね。
「もしかして、フロイデン王国ではお隣に座るのが普通でしたか? でしたら、申し訳ございません」
そう言って、私は頭を下げる。しかし、私の謝罪を聞かれたブラッド様は、またため息をつかれるだけ。そして、すぐに「謝るようなことじゃねぇ」とおっしゃいます。……まだまだ、私も勉強不足なのかもしれませんね。
「つーか、別に隣だろうが向かい合わせだろうが、特に決まりはねぇ。単に……引っ付こうかなぁって思っただけだし」
「……え?」
今、ブラッド様は何とおっしゃったの? そう思うとほぼ同時に、ブラッド様がご自身のお顔を私の方にグイっと近づけてこられました。……ち、近い。近い近い近い近い! そう思った瞬間、私の心臓が主張を始めました。
「ってか、婚約者だったら引っ付くのが普通だろ? あれ? ヴェッセルでは違った?」
「ち、違いませんけれど……」
確かに、婚約者同士でべたべたとされているお方もいらっしゃいます。しかし、生憎私にはそういう経験がありませんでした。だって、イーノク様はシンディ様に夢中になられてしまいましたし、私に触れようともしませんでしたから。
「じゃあいいじゃん。どうせだったら、クッキー食べさせてやろうか?」
「け、結構です!」
ブラッド様の提案に、私は大声で拒否の意を示しました。そんなの……恥ずかしくて、出来るわけがないじゃない! そんなことを私は思っておりました。
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