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「フライアって、本当に美味そうに食うよな」
そして、ブラッド様が何気なく発せられたお言葉に、私はむせてしまいそうになる。だって、ブラッド様は今私の顔をまじまじと見つめられながらそんなことをおっしゃったんだもの。いや、そんなまじまじと顔を見つめないでくださいませ。私、ブラッド様のように整った顔立ちをしていないのですから。
「そ、そうですか? 普通だと思いますけれど……。それから、そんな風にまじまじと顔を見つめないでくださいませ」
「いいや、本当に美味そうに食うよ。俺のも食う?」
「……そのケーキも、元は私のものの気がするのですが……」
ブラッド様はご自身の食べかけのケーキを私の方に持ってこられます。まぁ、ありがたくいただきますが。だって、その種類のケーキは一つしかないのですもの。そんな風に心の中で言い訳をしながら、私はパクパクとケーキをいただきます。うん、本当に美味しいわ。
「あ、そうだ。前にフライア言っていたよな。……どうして自分のことを連れ出したんだって」
私がケーキをいただいていると、ふとブラッド様はそんなことをおっしゃる。……そうですね。私は確かに、以前そんなことを尋ねました。しかし、尋ねた当初はブラッド様にはぐらかされてしまいました。だからこそ、私は未だにその理由を知りません。
「……簡単に言えば、放っておけなかったんだよな」
「放っておけなかった、とは?」
ブラッド様は私の顔をまっすぐに見つめられて、好戦的な笑みを浮かべられるとそんなことをおっしゃいます。しかし、私とブラッド様はあの時間違いなく初対面でした。なので、そんな風に放っておけないなんて言われる理由はないのですが。
「フライアってさ、自分が思っている以上に感情が顔に出ているんだよ。だから、俺はあの時思った。……あぁ、このままだったらこの女いいように使われて過労死するなって」
目の前で優雅に紅茶を飲まれながら、ブラッド様はそうおっしゃる。いいように使われて過労死、ですか。完全に否定できないのは、痛いところですね。ですが、私は自らの感情をうまく隠せていると思っていた。なのに、ブラッド様にはバレていたのですか。きっとブラッド様の観察眼が素晴らしいということなのでしょう。
「だから連れ出すことにしたんだよ。んで、どうせ連れて帰るならば嫁にするかって思っただけ」
「……そこは適当だったんですね」
どうせ連れて帰るのならば嫁にするかって……なんて、適当なのでしょうか。私はそう思っておりましたが、それでもブラッド様に助けられたのは真実なのです。私が文句を言えるわけではありません。
「おぉ、そうだな。ま、今となってはフライアを連れて帰ってきてよかったと思ってる。なんだかんだ言っても、良い奴だし」
ブラッド様はそうおっしゃって、今度はにっこりとした笑みを浮かべられました。その笑みを少しばかりかっこいいなどと思ってしまった私は一体何だったのでしょうか? そう思いながら私はブラッド様から視線を逸らし、ただ「褒めても何も出ませんよ」ということしか出来ませんでした。ただ、バクバクとうるさい心臓はなんだったのか。私はその意味がまだ、分かりませんでした。
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