お飾り王妃だった私は、本当の愛を知る

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** 「フライア!」 「……もう、何も申しませんからね」  その日もブラッド様は相変わらずと言っていいのか、私に与えられたお部屋にやってきておりました。いつものようにソファーを陣取り、本日のお菓子に手を伸ばされる。使用人たちももうすでにわかっているのでしょう。最近ではお菓子と紅茶を二人分用意するようになりました。  しかし、私は少し前に知ってしまったのです。グレッタやイルゼから、聞いてしまったのです。……ブラッド様は、甘いものが大好きというわけではない、と。つまりブラッド様は……お菓子を食べにこのお部屋にやってきているわけではないのです。 「……ブラッド様」  なので、私は余計に戸惑ってしまいました。ブラッド様は、お菓子を食べにこちらにいらしているわけではない。それでは、なぜこちらにいらしているのでしょうか? ただサボるだけの場所にここを選ぶ必要性は感じられません。それどころか、口うるさい私がいるのでサボる場所には不向きです。 「どうした? フライア」  ブラッド様は、ケーキを食べながら私の方に視線を向けられます。実に美味しそうなケーキ……ではなくて。とりあえず、ブラッド様にきちんとお尋ねしなければ。どうして、ここにいらしているのかということを。 「……い、いえ。グレッタやイルゼに聞きました。ブラッド様はそこまで甘いものが大好きというわけではないと。ですので、気になったのです」  ――どうして、こちらにいらしているのですか?  私は直球にそう尋ねました。甘いもの目当てではない。サボる場所としても不向き。じゃあ、どうしてここにいらっしゃるのか。私には見当もつきません。もしかしたら私の監視……ということもあるのかもしれませんが、他の時間は比較的自由にさせていただいているので、それもあまり考えにくいのです。 「……どうしてって、フライアに会いに来てるだけだけど?」 「じゃあ、尋ね方を変えます。……どうして、私に会いに来ているのですか?」  私に会いに来る。それはいつもブラッド様がおっしゃっているお言葉。今まではそのお言葉を特に気にしたこともなかった。でも、こうなった以上気になって仕方がない。ブラッド様はどうして私に会いにいらっしゃるのか。さらには、どうしてこの時間を選ばれているのか。 「……フライアって、鈍いのな。ここまで言ったら普通わかるだろう?」 「生憎、私は人の気持ちに疎いらしいのです。申し訳ございません」  ヴェッセル王国に居た頃も、よく言われました。私はどうにも人の気持ちに鈍いらしい。人が苦しんでいても気が付かない。そんな風によく罵られましたっけ。あぁ、思い出したくもない忌々しい記憶。そう言えば、ここに来てから罵られたことは一度もない。 「謝ってほしいわけじゃねぇ。フライア、そのすぐに謝る癖を何とかしろ」 「し、しかし」 「じゃあ、とりあえず俺と使用人に対しては易々と謝るな」  ブラッド様はそうおっしゃって、ご自身の頭をかかれる。易々と謝っているつもりは、ない。だけど、もしかしたら易々と謝っていたのかもしれない。だって、ヴェッセル王国にいたころは謝るのが普通だったから。謝らないと、ダメだったから。
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