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……攻め入る……?
それって、つまり……。
「……戦争、ということでしょうか?」
フロイデン王国は、血の気の多い国であり、多大なる武力を持った国です。きっと、攻められればヴェッセル王国は半壊してしまうでしょう。それは、容易に想像がつきました。ヴェッセル王国の唯一誇れるところは、魔法の技術。しかし、それをもってしても……戦力の差は二倍以上つくでしょう。どうにかして、戦争を回避しなければ。
「おぉ、話が早いねぇ。そういうことだ。俺はフロイデン王国の国王陛下に直々に指名されて、ここに来た。……この国は資源が比較的豊かだし、魔法の技術は魅力的だ。それを奪えれば……さらに、フロイデン王国は発展する」
ブラッド様は、不敵な笑みを浮かべられて、そうおっしゃいました。……その言葉を聞いて、私はただ膝の上で手を握り締めることしか出来ませんでした。……戦争になれば、平民の方々も駆り出されてしまう。いいえ、平民の方々が一番犠牲になってしまう。それは、避けなくては。平民の方々は、こんな私でも慕ってくれている。……だから、何とかしたかった。
「……ブラッド様。こちらは、平和的に解決をしたいと思っております。……回避のための条件を、教えてくださいませ。呑めるものならば、出来る限り呑みたいと思っておりますわ」
私は、ブラッド様に静かにそう告げる。何が、狙い? 魔法の技術? それとも……資源? 領地、ということもありますよね。私は、必死に思考回路を張り巡らせ、何が狙いなのかを考える。しかし、寝不足気味が祟り、なにも思いつかない。だからこそ、唇をかみしめてブラッド様のお言葉を待つしかなかった。
「そう、冷静な判断ができるんだな。……ま、そういう解決方法もあるわな。……国王陛下からも、そういう提案があった場合の条件も教えてもらっているし。まぁ、そっちが呑めるかは分かんねぇけど」
「……呑めない、と決まったわけではありませんので、教えてくださいませ」
「そうだねぇ、こっちの条件。それは――」
ブラッド様が、私に条件を教えてくださろうとした時でした。いきなり応接間の扉が開き、私の一応の旦那様で、この国の現国王陛下であられるイーノク様が、堂々とお部屋に入ってこられました。そりゃあ、このお部屋はイーノク様の所有物でもありますが……それでも、お客様がいらしているのに、その態度はないと思います。そう思って、私は眉をひそめておりました。
「……フロイデン王国からの使者とは、お前か?」
イーノク様は、私のことを無視されて、ブラッド様にそうおっしゃいました。……ブラッド様は、お客様です。だから気軽に「お前」などと呼んでいいお方ではない。普段の私ならば、見逃していたでしょう。ですが、今は戦争がかかっています。だからこそ……注意をしておかなくては。
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