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「じゃーあー、あたしぃー、チキンバーガー。」
「あっ、あたしもそれーっ。」
「それとぉー、ナゲットとぉ…」
「あたし、コーラやめてウーロン。」
「あっ、じゃあ、あたしもー。」
……
イライライライライライラ。
何なのよ、さっきから。
あんたらのせいで、隣の列の方が早く進んじゃったじゃないのよ。
「あっ、待ってぇー。やっぱりぃーポテトはSねー。」
プチッ。
キレそうになった瞬間。
「お客様、お待たせいたしました。こちらにどうぞ。」
あたしの顔色を見てたのか、隣のレジの店員が、あたしを呼んだ。
「……」
「……」
つい、隣の女子高生三人組を呆れた顔で見ると。
向こうも負けじとあたしを舐めるような目で見て来た。
「ご注文どうぞ。」
店員に言われて、あたしはメニューに目を落として。
「チキンバーガー二つにポテトのLを一つ。それとコーラとウーロン茶のMサイズを一つずつ。あと、アップルパイを二つ。」
だーっと言い切ると、店員がオーダーを繰り返した。
「以上でよろしいですか?」
「はい。」
「…よく食べるわねぇ、一人で…」
隣の三人組が笑った。
「…余計なお世話だわ。それより早く頼めば?後ろ、大渋滞よ。」
あたしの言葉に三人組は後ろを見た後。
「うるさいわね!あたし達は客なのよ!」
「ダッサイ靴下はいちゃって!同じ高校生なんて思いたくないわ!」
「ここは、あたし達みんなの店よ!」
…はいはい。
言ってる事がおかしすぎて、反論する気にもならない。
後ろに並んでる客達も、笑いを押し殺してる。
「何とか言ったらどうなのよ!」
「…沙都、遅い。」
あたしが店の入り口を振り返って言うと。
「ごめん、紅美ちゃん。」
のっぽの沙都は、極上の笑顔であたしに駆け寄った。
「あ、買っといてくれたんだ。」
「適当に頼んだわよ。」
「僕の好み、分かってるクセに。」
「明日はあんたのおごり。」
「分かった。」
三人組はまだオーダーもせず、あたしと沙都のやりとりを眺めてる。
まあ…仕方ないか。
沙都は他校でも人気者だ。
「席、あそこでいい?」
トレイを持って、沙都が窓際の明るい席に向かう。
舗道には先週降った雪がまだ少し残ってて、その白さが景色を明るく見せた。
「沙都。」
席についてすぐ、あたしは切り出す。
「何?」
「今回のテストで赤点取ったら、もうあんたの家教やんないよ。」
「ガーン…」
「ガーンじゃないわよ。教え甲斐のない奴には教えたくないから。」
あたしの言葉に、沙都は顔面蒼白。
「だいたい進級試験で赤点なんて取ったら、あんた留年決定よ?」
「…でも、追試があるよ?」
「あたしが時間を割いて教えてんのに、赤点取るつもりでいんの?早く教科書とノート出して。」
朝霧沙都は、朝霧家の次男坊。
あたしより一つ年下の16歳。
お祖父さんは、Deep RedとF'sってバンドでギタリストをしてた朝霧真音。
父親は、SHE'S-HE'Sのドラマー朝霧光史。
あたしの父親も、そのバンドのギタリストだから、あたしと沙都は幼馴染と言うか兄弟と言うか…
まあ、家族のようなものだ。
沙都の兄である希世も、バンドマン。
DEEBEEってバンドで、ドラムを叩いてる。
ギタリストの祖父、ドラマーの父と兄を持つ沙都は、朝霧家にはベーシストがいない。と、ベースを弾き始めた。
あたしは物心付いた頃には、そばにギターが当たり前にあったから。
気が付いたら、弾いていた。
もろに、父親、二階堂 陸の影響。
幼馴染の宇野沙也加がドラムを始めたのをキッカケに、沙都と三人でバンドを組んだ。
プロになるとか…そんなつもりはないけど。
「…紅美ちゃん。」
「何。」
「どの公式使えばいいのか、わかんない。」
「昨日やったよ。前のページ見て。」
必死で数学に取り組んでる沙都。
そんな沙都に、周りの席の女の子達が熱い視線を送ってくる。
他校でも人気者の、桜花のアイドル。
だけど沙都は…
あまり女の子に興味がない。
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