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11話
月曜日、すでに大学へ来ていた莉菜が教室で席を確保してくれていた。
「おはよう、朱音。」
「おはよ。」
莉菜がこっち見ながらニヤニヤしてるんだけど。
「何その笑い。なんか気持ち悪いよ。」
「いや~、土曜日どうだったのかな~と思って。」
土曜日?
「例のデートの日だったんでしょ?」
「ああ。どうって、普通に楽しかったよ。」
「へ~、楽しかったんだぁ。」
「何よその意味ありげな言い方は。」
「別に~?ただ、珍しいなって思ってさ。」
珍しい?
何が?
「ま、いい傾向だね。これからが楽しみだわ。」
「意味分かんないんだけど。何が楽しみなの?」
「さあね~。その内分かるんじゃん?」
「何それ。気になるんだけど。」
「こればっかりは自分で気付かないと意味が無いと思うし。ま、頑張れ。」
「だから何を…」
莉菜を問い詰めようとしたら教授が入ってきてしまった。
本当さっぱり意味が分からないんだけど。
何を頑張れと?
う~ん…もやもやする。
莉菜の様子からして教えるつもりは無さそうだし。
何が珍しくて何が楽しみなんだろ。
**************
大学から帰った後、ベッドの上で私は悩んでいた。
「う~ん…」
土曜日、何処がいいんだろう。
私の行きたい所でとは言われたけど…
よく考えれば、それじゃただのデートだよね。
これはあくまで作戦であり実地訓練なんだから、デートしてるだけじゃ意味ない。
稲田さんを次こそは”いい人止まり”で振られないようにするのが目的なわけだし。
でもそう考えれば考える程悩むんだよね。
「朱音~!晩ご飯よ~!」
「はーい!」
階段を下りてリビングに入ると、お父さんがすでに座っていた。
「あれ、お父さんおかえり。早かったんだね。」
「ただいま。今日は仕事が片付くのが早かったからな。」
「そうなんだ。お疲れさま。」
「ありがとう。そうだ。朱音これいるか?」
「何?」
お父さんに渡された紙を見ると、チケットだった。
「遊園地の入場券?どうしたのこれ。」
「この前会社の飲み会の景品で当てたの忘れててな。2枚しかないけど、友達とでも行っておいで。」
「あら、そこは彼氏と行っておいでじゃないの?」
「何?彼氏がいるのか?!」
「え、いないけど。」
「あら、そうなの?お母さんはてっきり恋人が出来たんだと思ってたけど。」
寧ろ何でそう思ったの。
「いないよ、そんな人。でもこれは貰っとくね。お父さんありがとう。」
「女の子と行くんだよな…?」
「あなた、そこを詮索するのは野暮ですよ。」
何でか泣きそうな顔のお父さんは置いといて。
莉菜でも誘って行こうか…
ん?これ期限今週末までじゃん。
土曜日は稲田さんと約束してるし、日曜日はバイトあるし…
そっか。稲田さんと行けばいいんだ。
丁度行く場所にも困ってたし、チケットあるから稲田さんにお金使わせなくて済むし一石二鳥じゃない?
遊園地なら、稲田さんの色んな顔が見れそうな気がする。
「あ、でもお昼ご飯どうしよ…」
この遊園地あんまり食事出来るお店がないんだよね。
「あら、お弁当作って持って行けばいいじゃない。」
「お弁当?」
「遊園地でのお昼ご飯のこと悩んでるんでしょ?あそこは園内に広場があるから、お弁当持って行って食べるカップルや家族連れも多いのよ。昔3人で行った時もお弁当持って行ったじゃない。」
そうなんだ。
お弁当か。
え、でもそれ稲田さん的にどうなんだろ。
彼女でもないのにお弁当持って来られてもね。
でも、手作り弁当を持って来られた時の反応もちょっと気になる。
遊園地じゃなくても、お花見とかで気になる相手がお弁当持ってきてくれたりするかもしれないもんね。
よし。
「お母さん、土曜日お弁当作るの手伝ってくれる?」
「はいはい。その変わりちゃんと早起きしてちょうだいね。」
「はーい。」
「朱音の手作り弁当、父さんも食べた事ないのに…」
「娘なんてそんなものよ。」
何かやたらとお父さんが凹んでるけど、お母さんに任せとこ。
後で稲田さんに連絡しとかないとな。
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