2話

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2話

それにしても。 成り行きでこの人と一緒に帰ることになっちゃったな。 お互い駅に向かうってことで、じゃあそこまで一緒に…ってなったのはいいけど、ちょっと気まずい。 初対面の人って実は苦手なんだよね… 早く着かないかな。 「あの…良かったんですか?帰っちゃって。お友達ずっと呼んでましたけど。」 「えっ?ああ…いいんです。どうせ私がいても盛り上がらないし、ああいうの苦手なんで。」 ビックリした。 まさか話しかけられるとは思ってなかった。 「…意外です。」 「意外?」 「楽しそうな事好きそうに見えるので。あ、別にその、見た目がどうとかじゃっ…」 「別に…慣れてるので、そういうの。」 見た目が派手ってだけで、遊んでそうとかよく言われるし。 「すみません。」 「いや、別に謝らなくても…」 「でも、慣れてるようにはとても見えないので。だから、ごめんなさい。」 「…」 何なのこの人… 人の表情読むのやめてよ。 「そういえばさっきも、黙々とご飯食べてましたもんね。出会いを求めてきたんじゃないのかなって、ちょっと不思議に思ってたんです。」 「…それはあなたもでしょ。」 「僕ですか?」 「あなたも話を聞いてニコニコしてるだけだったじゃないですか。良かったんですか?自分の事もっとアピールしなくて。あれじゃただのいい人ですよ。」 「いい人、か…」 え…ものすごく落ち込んでるんだけど。 何か地雷だった…? 「ごめんなさい、駄目とかそういう意味じゃ…」 「…僕、実は今まで恋人が居たこと無いんですよ。」 「え?!一度も、ですか?」 「はい、一度も。やっぱり驚きますよね。いい年なのに。」 いや、まあ、うん… 確か25歳とかだっけ? その年まで彼女居たこと無いのは…正直驚くかも。 いてもおかしくなそうなのに、何でだろ? 「高校生の頃から今まで、告白しても相手に必ず”いい人なんだけど、そういう対象じゃない”って言われるんです。」 「ああ…それはちょっと分かるかも…」 「え?今日会ったばっかりなのに分かるんですか?」 しまった。 つい心の声がポロっと… 「そっか…そんなすぐに分かるぐらい僕って駄目なのか…」 「いや、駄目とかじゃなくて…」 めっちゃ傷ついてる! え、どうしよう…どうフォローしたらいい?! 「…僕ね、夢があるんです。」 「夢?」 「はい。両親のような仲のいい、お互いを大切に思い合える夫婦になりたいっていう夢。」 「あ…」 その夢… 「だけど、無理かもしれないな…何せ告白6連敗中ですからね。相手が居ないんじゃ…」 「…諦めないでください。」 「え?」 「まだ6回じゃないですか。7回目は大丈夫かもしれないでしょ?ほら、ラッキー7ってよく言うじゃないですか!」 「それは、そうですけど…」 「”いい人”じゃなくて、”いい男”を目指せばいいんです!」 「いい男…具体的には、どんな男がいい男なんでしょうか?」 「え?えっと…そうですね…」 いい男…って、確かにどんなんだろ。 見た目? でも、別にこの人見た目悪くないと思うんだよね。 服のセンスも悪いわけじゃないし… ていうか、自分で言っといてなんだけど、そもそも”いい人”の何が悪いんだって話よね。いいじゃん、いい人で。 …あ。 そっか、駄目な”いい人”もあるのか… 「あの…今から言う事で傷つけたら本当にごめんなさい。でも、私が思ったことを言ってもいいですか?」 「…ちょっとだけ待ってもらってもいいですか?心の準備をするので。」 目瞑って深呼吸してる。 ただの女子大学生の意見をこんな真剣に受け止めようとする程、この人にとって深刻な悩みだったんだな。 きっと、さっき話してくれた夢をそれぐらい大切にしてるってことだよね。 凄いな。 私なんて… 「…はい。心の準備出来ました。」 「あ、はい。じゃあ、言いますね。」 「どうぞ。」 何か私まで緊張してきた。 なるべく傷つけないようにしたいけど… 「”いい人”っていう言葉には少なくとも2つの意味があるんですけど、知ってますか?」 「2つの意味ですか?」 「はい。1つは文字通り人として”いい人”って意味です。優しい人とか親切な人とか、そんな感じですね。もう1つは…」 ああ、言い辛いな… 「もう1つは?」 「…”どうでもいい人”という意味の、”いい人”です。」 「どうでも、いい…」 「自分にとってはどうでもいい存在…そんな感じです…」 「つまり、存在自体がその人の中ではいないも同然ということ、ですね…」 この人が言われた”いい人”がどっちなのか正確には分からないけど、多分そういう意味で言った人も中には居たんじゃないかなって思ったんだけど… 好きになった人に、どうでもいいって思われてたかもしれないなんて、傷ついたよね。 やっぱ言わない方が… 「…僕は、どうすればいいと思いますか?」 「え?」 「好きになった人に、どうでもいい存在と思われず”いい人”で終わらないために、出来れば僕は変わりたい。だから教えて欲しいんです。僕の一体何が駄目で、どう変わればいいのか。」 「教えるって言っても…」 そんなにこの人のことよく知らないしな。 具体的なことまでは言えないんだけど。 それに… 「…どうして恋愛にそんなに必死になれるんですか?夢のため、ですか?」 「だって幸せじゃないですか。お互いを大切に思い合えるって。何度も失恋してるからこそ、奇跡的な事なんだなって分かるんです。その為に僕の変化が必要なら、僕は変わりたい。」 「…凄いな…」 私は、そんなこと出来なかった。 「あの…?」 「…分かりました。私で良ければ協力します。」 「協力?」 「これから何度か私とデートをしましょう。そこであなたのここが駄目だと思ったら、その場で伝えます。」 「デート、ですか?」 「はい。こういうのは実地訓練が一番効果的だと思うので。名付けて”いい人脱出デート大作戦”です。」 「いい人脱出デート大作戦…」 …あれ? 何か外した? 「…よろしくお願いします、先生。どうぞお手柔らかに。」 「…はい!」 自分でも、何で今日初めてあった人の為にこんなに熱くなってるんだろうって思う。 放っておいたらいいのにって。 でも、あの夢を聞いてしまったらそんなこと出来なかった。 だって… 私もかつて、同じ夢を持っていたんだから。
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