5話

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5話

「すみません、待たせてしまいましたか?」 待ち合わせ場所に指定したカフェで待っていると、約束の5分前に稲田さんがやってきた。 思ったよりも早かったな。 「大丈夫です。私もさっき来たばかりなので。お仕事お疲れ様です。」 「ありがとうございます。あなたも、学校お疲れ様です。」 学校お疲れ様って、何かちょっと変な感じかも。 そんなこと言われたことないからかな。 「じゃあ早速ですが。」 「はい。」 「過去6回の状況について、詳しく話してもらっていいですか?」 「…分かりました。」 今日は別にデートの為に約束してたわけじゃない。 彼がどうして”いい人止まり”で6連敗しているのか、その原因を探るため。 振り返ることで見える物があるんじゃないかなって思って。 失恋を振り返るのは、彼には辛い作業のはずなのに。 この話をしたら、構いませんとすんなりOKしてくれた。 それだけ本気なんだろうな。 「……という感じです。」 「なるほど。」 お相手の年齢はバラバラなのね~。 年下・年上・タメ…好きになるのに年齢は関係ないって感じか。 一緒にいると自然体でいられるっていうのが、彼のポイントらしい。 あと、笑った顔が可愛い、かな。 この同級生の女の子は、図書委員をずっと一緒にやってて好きになったんだっけ。 ちょっと想像出来るかも。図書室にいる稲田さん。 うん、似合うわ。 今でも読書が好きみたいだしね。 うーん… でもやっぱり、実際にこの人達とのやり取りを見てないと、何が”いい人止まり”の原因なのかは分かんないな。 「稲田さんは、自分では何が原因か思い当たります?」 「そう、ですね…うーん…」 それが自分で分かったらこんな事にはなってないか。 今のは酷い質問だったかも。 「ちなみに、この6人の方に共通点ってあったりするんですか?」 好きになりやすいタイプがあるなら、今後の為にも知っておきたい。 「共通点ですか?そうだな…見た目というか、雰囲気は似ているかもしれませんね。」 「このお店の中に似た感じの人っています?」 「え?えっと…」 キョロキョロと店内を見渡した稲田さんが、ある場所に視線を止めた。 「ああいう感じ、ですかね。」 「…ああ。」 そこには、2人組の女性の姿。 どちらの女性も清楚系の大人しめな雰囲気で、小さく笑い合いながら会話している。 確かに、この人の隣に並ぶならああいうタイプが似合うだろうな。 間違っても私みたいな派手な女じゃない。 「…男の人って、ああいう清楚なタイプ好きですよね。」 つい先日見た光景が頭を過ぎる。 別に元彼の事が好きだったわけじゃないけど、それでも少しだけショックだった。 結局最後は、ああいう子が選ばれるんだなって。 私はいつも、見た目が派手ってだけで遊んでると思われる。 実際はそんな事無くても、信じてもらえない。 当然ヤりたいだけで近寄ってくる男も多くて。 自棄になってた時期は、そういう誘いに乗ってたこともあったけど。 虚しくなってすぐに止めた。 見た目通りでも見た目と違っても、私は受け入れてもらえない。 それが分かってから、もう恋愛はしないって決めてる。 付き合ってと言われれば付き合うけど、こんな感じだから最近は1ヶ月持てばいい方だ。 そんな私がこの人に協力するなんて、やっぱり無謀なのかも。 「あの…僕は何か、あなたを傷つけるようなことを言ってしまいましたか?」 「え?」 「だってさっきから、何だか悲しそうな顔をしてます。」 「ああ…大丈夫です。ちょっと昔の事思い出しちゃっただけなので。」 悲しそうな顔、か… 私はまだ、あの時の…先輩とのことを思い出すとそんな顔してるんだ。 「僕で良ければ、話聞きますよ?」 「え、でも…」 稲田さんの話をするために会ってるのに。 「もちろん、無理にとは言いませんけど。誰かに聞いてもらったらスッキリすることもあると思うんです。僕みたいに。」 「僕みたいに?」 「実は…6回目の失恋ってつい最近の話なんです。だから、あの日もまだ割と落ち込んでいて。本気でもう無理なのかもって思ってたんです。」 「そう、だったんですか…なのに私、あんな事…」 どうでもいい人って意味もあるなんて、失恋したての人に言うとかどれだけ傷つけたんだろ… 「気にしないでください。あなたの言葉で、僕は変わろうって思えたんですから。諦めないでって、協力するってあなたに言ってもらえてすごく嬉しかった。あの夢を知っても笑わずにそんな事を言ってくれたのは、あなたが初めてだったんですよ。」 まあ確かに、男の人にしては可愛らしい夢かも。 いいと思うけどね、私は。 「僕がそんな風に元気づける事は出来ないかもしれないけど、話したら気持ちに整理がつくこともありますから。何がそんなにあなたを悲しませているのか、僕で良ければ話してみませんか?」 …初めてだな。 お父さん以外の男の人に、こんな風に優しくされたの。 ヤバいな。 泣きそうかも。 「…本当に、聞いてくれますか?」 「もちろん。」 「どんな話でも?」 「はい。」 本当、根っからの”いい人”なんだな。 普通は聞かないよ。 先輩の事、莉菜以外には話したことが無いけど… この人に話したら、何か違ってくるかな。
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