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8話
ついにやってきた土曜日。
実地訓練とはいえ、デートはデートなわけで。
周りから浮いて注目されても嫌だしなって思うんだけど…
やっぱりなかなか難しそう。
分かってたことだけど。
「う~ん…どうしよう。」
あの人の私服一回しか見てないけど、爽やか系だったんだよな。
それに合わせようと思うと、どれがいいか分かんない。
やっぱワンピ?
「やばい。本気でどれにしたらいいか分かんない。」
クローゼットの服を出しては戻し、出しては戻し。
出かける前から疲れてきたんだけど。
「ん?これ……」
一番奥に仕舞ってある、この中で唯一系統の違う服に目が留まった。
先輩と付き合う前、私が一目惚れして買った服だ。
控えめなレースと露出の少ない、所謂清楚系ワンピ。
「前はこういうのに憧れてたな…」
存在すらすっかり忘れてた。
こういうのが似合う人なら良かったのに…
ボーっと眺めていることに気付いてハッとする。
「こんな事してる場合じゃなかった。う~ん…これかな?」
黒いオフショルダーのワンピに着替える。
割とシンプルだし、オフショルダーがちょっと深めだけど大丈夫でしょ。
はぁ。
今度、稲田さんの隣でも違和感ない服買おう。
髪も明るすぎるかなぁ。
稲田さん暗めの髪色だから、隣に居たら目立っちゃいそう。
今度美容院に行って染めようかな。
メイクももう少しナチュラルな方が…
……ん?
別にそこまでする必要ないのか。
私はあくまで協力者だし。
いやでも、こんな派手な女連れてたら稲田さんが恥ずかしいか。
「って、やばっ。遅刻する!」
時計を見たら待ち合わせ10分前。
待ち合わせ場所、駅前だったよね?
間に合うかな。
「あら?朱音出かけるの?」
階段を駆け下りて玄関へ向かっていると、お母さんに呼び止められた。
「うん!あ、ねえお母さん。これ変じゃない?」
「え?……大丈夫。可愛いわ。気を付けて行ってらっしゃい。…頑張ってね。」
「ありがとう。行ってきます!」
駅へと小走りで向かいながら、さっきの言葉を思い返す。
お母さん、頑張ってねって言ってたけど…
何の事だろ?
しばらく走って、やっと見えてきた駅前。
稲田さんどの辺だろ。
う~ん……いた!
「すみませんっ、お待たせしました!」
稲田さんに駆け寄ると、ホッとしたように笑顔で迎えてくれる。
もしかして心配させてたかな。
それにしてもこのパンプス、走りやすかった。
今度色違い買おう。
いや、そんなことより。
「ごめんなさい、ちょっと準備に時間がかかっちゃって…」
「大丈夫ですよ。そんなに待ってませんから。女性は準備が大変だというのは聞いてますし。ただちょっとだけ、何かあったのかなって心配はしましたけど。」
やっぱり心配させてたのか。
「ごめんなさい。家を出る時に連絡すれば良かったですね。」
「あなたが無事ならいいんです。それより…走ってきたんですか?」
もしかして、髪の毛乱れてる?
思わず髪の毛を触ると、首を振られた。
「足、痛くないのかなって。」
「足?…ああ。大丈夫ですよ。」
ヒールだから心配してくれたのかな。
「何処か近くで休んだ方が…」
「大丈夫ですって。この靴以外と走りやすかったですし。」
「本当に大丈夫ですか?」
案外心配症?
私でこれなら、本当に好きな相手だったら毎日色んな事心配してそうだわ。
「それよりも!この後どうしますか?」
「あ、はい。えっと…一応考えては来たんですけど、朱音さんは行きたい所とかしたい事とかありますか?」
「そうですね…稲田さんのデートプランを先に聞いてもいいですか?」
「ありきたりかもしれないですが…映画見て、カフェで食事して、後はのんびり散歩でもしながら話が出来たらいいかなって。」
なるほど。
うん。稲田さんっぽい。
「それでいきましょう。」
「え、いいんですか?朱音さんの希望何も入ってませんけど。」
「はい。折角稲田さんが考えてくれたデートプランだし、それに、ちゃんと考えてきてくれて嬉しかったので。」
「…そうですか。良かった…」
「じゃあ、まずは映画に行きましょうか。」
「そうですね。」
改善点を見つけるためには、私がちゃんとデートを楽しまないとな。
稲田さんとのデート、どんな感じになるんだろ。
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