775人が本棚に入れています
本棚に追加
9話
「そういえば、映画って何を見るんですか?」
「それがその…まだ決めてないんです。映画は結構好みが分かれますからね。僕は割と何でも見るタイプなので、朱音さんに決めてもらおうかなと思って。」
まあ確かに。
恋愛系が好きな人もいれば、アクションがいいって人もいるもんね。
このジャンルだけは絶対見れないっていうのもあるだろうし。
「着きました。」
「うわ…結構人多いですね。」
「休日ですしね。つい最近話題作が公開されたばかりっていうのもあるかもしれません。」
「話題作?」
「知りませんか?感動で泣けると評判の恋愛映画です。」
知らないな。
最近映画とか殆ど見てないんだよなぁ。
それにしても、結構色々やってるんだな~。
稲田さんの言う話題作の恋愛物に、アクション系、ホラーにアニメ、感動系のヒューマンドラマ…
あり過ぎてよく分からない。
「稲田さんのおすすめとかありますか?もしくは見たい物とか。」
「僕ですか?そうですね…このアクション映画はおすすめです。あ、でもこれシリーズ物だからな…前作を見てないとちょっと分からない部分もあるのか。」
稲田さんの口調が崩れてる。
たまにあるけど、いつも敬語だからかギャップがあってちょっといいよね。
これを利用するのもいいんじゃないかな~。
ここぞって時に、態と敬語使わないの。
後で稲田さんに教えてあげよう。
「じゃあ、この映画にしましょうか。」
「え?でも朱音さん前作見てないんじゃ…」
「稲田さんのおすすめなんでしょ?だったらこれがいいです。その変わり映画が始まるまでの間に、前作がどんな話だったか教えてくれますか?簡単にで良いので。」
「…勿論ですよ。映画が楽しめるように、ちゃんと説明しますね。」
一瞬驚いた顔をしてたけど、何だったんだろ?
まぁいっか。
有難いことに、上映まで1時間ぐらいあるから詳しく教えてもらえそう。
「じゃあ、隣のカフェにでも行きましょうか。」
「はい。」
映画館に隣接してるカフェで教えてもらった前作のストーリーは、聞いてるだけでも面白そう。
それに、本当に好きなんだなって言うのが伝わってくるから、これを選んで正解だったって思う。
こんな饒舌な稲田さん、出会ってから初めて見たもん。
「そろそろ時間ですね。行きましょうか。」
「はい。」
あれ。伝票が無い…
ハッとして前を歩く稲田さんの手を見ると、しっかりと握られている伝票。
「稲田さん、コーヒー代ぐらいは私も出します。」
「大丈夫ですよ。」
「いやでも…」
こういうのは男が出すものだし自分は社会人だからって、映画のチケット代も受け取ってくれなかったのに。
「授業料だと思って気にしないでください。」
授業料?
…ああ。実地訓練だからってことかな。
「…すみません。ありがとうございます。」
「今後も必要なお金は僕が出しますけど、気にしないでくださいね。」
気にしないとか絶対無理だけど。
「…頑張ります。」
なるべくお金を使わせないように、何か対策を考えよう…
**************
「はぁ~面白かった!」
「朱音さんにも気に入ってもらえて良かったです。」
「稲田さんのおすすめ選んで正解でした!あの脱出シーンとか迫力あったな~…今度前作も見てみますね。」
「DVD貸しましょうか?」
「持ってるんですか?」
「はい。」
本当好きなんだな、この映画。
「じゃあ、お願いします。」
「はい。今度会う時に持ってきますね。」
いつも割と微笑んでる人だけど、今は楽しそう。
「ちょっとお昼の時間は過ぎちゃいましたけど、カフェ行きましょうか。」
「そうですね。」
私もこんなに楽しいって思えるの久しぶりかも。
デートってこんな感じなんだっけ。
最近適当な付き合いばっかりしてたから忘れてたな…
「朱音さん?どうかしましたか?やっぱり足が痛いんじゃ…」
「え?いえいえ、違いますよ!足は大丈夫です。ただ…楽しいなって思ってただけです。」
「朱音さん…」
あれ?どうしたんだろ。
稲田さんが固まってる。
「稲田さん?どうかしました?」
「……良かった…」
もしかして結構緊張してたのかな。
女性と2人で出かけたことあんま無いって言ってたし。
「…僕も、朱音さんと一緒にいるの楽しいです。」
「…っ」
…やだな。ちょっとドキッとしちゃったじゃん。
顔赤くないかな…
優しく微笑みながらそういうこと言うの反則じゃない?
深い意味じゃないって分かってても、今のはヤバかった…
稲田さん、案外天然タラシなのかも…
最初のコメントを投稿しよう!