5人が本棚に入れています
本棚に追加
ふわふわたまご チキンライス(3)
「てるてる坊主のおばけ!」
うみが声を出すのと同時に暗闇のかたまりはその場でくるりと回って逆さまになると、覆っていた真っ黒なマントのようなものがふわりとひっくり返り、同時に中からうみと同じ年くらいの男の子が姿を現した。
うみは、黒いマントを羽織ったその男の子の異様な姿に、ヒーローごっこと称して教室のカーテンにくるまって遊ぶクラスの男子の姿を思い浮かべた。
「どう? これで怖くない?」
そう言うと、男の子はおもむろにうみの隣に腰かけた。
「だれ!」
「えっと……そうだな…。ここに住んでる」
「うそつき! うみいつもこの公園に来るけど見たことないもん! 昨日もその前もこの公園……」
体が動くことを思い出して、うみは男の子から離れて座りなおした。
視線の先が男の子から外れ、その後ろの風景をとらえると、うみはいつもと違う公園の雰囲気にベンチから勢いよく立ち上がった。いつも周りの木々の間に垣間見える外の景色や空の青さはいっさいなく、公園だけを切り取ったようにすべて真っ黒だった。
「ここはどこ……」
うみは男の子に向き直ると、もう一度同じことを聞いた。また、体がさっきと同じように重くなるのを感じて足元を見ると、すでに足首のところまで地面の中に消えていた。
「ねえ! ここはどこ!」
すがるように問うと、男の子はうみをじっと見つめたまま少し微笑んで静かに一言だけ言った。
うみの世界──。
囁くようなそのやさしい声に、うみはふいにかおるからもらった甘いクリームの詰まったパンを思い出した。口の中に広がる甘い香りが体中に染み込むようにして自然とその声が体の中に広がり、今この瞬間大きく息を吸い込めば男の子ごとうみの体の中に溶け込んでしまいそうなほどに、ふわりとやわらかだった。
最初のコメントを投稿しよう!