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ふわふわたまご チキンライス(5)
「お仕事大変なの?」
携帯電を片手に向かいでうなだれている照美に問いかけると、うみは再びチキンライスをスプーンですくい上げ、今度は口に運ばずそのまま照美の返事を待った。
「べつにお仕事自体は大変じゃないわよ。一緒にいろんな人と働いてると大人の世界にはいろいろあるの」
うみは待機させていたチキンライスを口に運ぶとよく噛みながら次の言葉を考えた。
「お仕事かえちゃえば?」
やっと目が合ったと思った瞬間、うみは自分の発した言葉に何か間違いがあったのだと感じた。うみを見る照美の目は時折見せる穏やかなものではなく、うみは咄嗟に持っていたスプーンをお皿の上に置いた。
「仕事を変える? そんな簡単なことじゃないの! お仕事だってなんでもできるわけじゃないんだから。うみは明日から夏休みで家でのんびりしてればいいかもしれあないけどお母さんは違うの! うみのご飯だって作らなきゃならないし、お父さんもいないんだから……」
照美はそこまで言うと、急ぐように立ち上がって今朝の残りの洗い物をはじめた。うみは次の言葉を必死に探したが、いくら考えても何も思いつかず、少しの間照美の洗う食器のぶつかり合う音だけが家の中に響いているだけだった。
結局どうしていいのか分からなくなって、うみは置いてあったスプーンを持ち直し、先ほどよりも半分くらいの量のチキンライスをすくって口に運ぼうとした。
その時微かに震えた声で照美の声がした。
「ごめんなさい…」
うみはその言葉に、自分がやはり何か良くないことをしてしまったのだと思い、それ以上チキンライスを口に運ぶことができなかった。
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