1. パンダが動いてる!!

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「あら!エリカちゃん、どうしたの! 何か忘れもの?」 この店舗で一番面倒見のいい黒田マネージャーが、まだ大量に溜まっている食器と悪戦苦闘していた。 「え、ええ。財布と携帯忘れちゃって。た、確かここに置いたはずなんだけど………。」 狭い店内に私物を置く場所すらなく、各自が空いたスペースに置いているのだ。 ガサゴソ周りの荷物を退かしてようやくエリカは財布と携帯を見つけた。 「あ、あったあ〜〜、良かったあ〜〜。す、すいません、黒田さん。お仕事中邪魔しちゃって。」 「いいのよ、そんなこと。それより、無事見つかって良かったわねえ。 あ! で、でも、バスの時間、もう過ぎちゃってるんじゃないの? 今からじゃあ、間に合わないかも?」 「大丈夫ですよ、黒田さん。今は週末は臨時便が出てるんです。だから、あと一本遅い便があるんですよ。」 心配顔の黒田マネージャーの顔がたちまち緩んでいった。 横にいた高木 萌も安堵の表情になると、 「あ!そうか、忘れてた。そうだったわね。だったら、あんなに慌てて帰り支度する必要もなかったじゃない!」 「何言ってんのよ、萌。一本でも早く乗って帰れた方が良いに決まってるでしょ?最後の便は20分も後になっちゃうんだから。」 「ええ〜〜、そうなんだ。間あき過ぎじゃない、それって。」 再び、萌がふくれっ面になった。 「あ、あれ?おまえたちどうしたんだ?もう、てっきり帰ったのかと。」 この店舗ではかなり古株の河村 啓介が声を掛けてきた。 「あ〜〜、河村さ〜〜ん。遅くまでお疲れ様さまです。 エリカが財布と携帯置いてきちゃったっていうもんだから、付き合ってあげたんです。」 「なあんだ、そっか。まあ、気を付けろよ。 あ!そうだ。今日、けっこう ”さば寿司“が売れ残っちゃってさあ〜。 おまえたち、お腹空いたろ? 食べるか?」 「え〜〜〜!!ホントですか? ありがとうございます!!」 まだ今年大学に入学したばかりの若干、19才の二人はお互い手を取り合ってはしゃいでいた。 「あはははっ、そんなに喜んでくれるんだったらこっちも作り甲斐があったってもんだ。 まあ、実際は黒田さんが、今日は絶対出るからって朝から10個も作っちゃったもんだから。」 黒田は地獄耳だった。 「ちょっと!河村さん!今の、何よ!まるで私のせいみたいに。 ちゃんと先週の出数を調べたうえですからね! 当てずっぽうで言ったわけじゃないんですから!」 「でも、今日は朝から天気悪かったし、予報通り一日雨だったからねえ。 その点も考慮に入れておかないと。」 「ええ〜、でも雨の方が逆にお客さんが流れてくるってこともあるじゃない? ねえ、萌ちゃんもエリカちゃんもそう思うでしょ?」 「え、ええ……、そ、そうですね……。」 いきなり振られたエリカたちが困っていると、遠くから野太い声が飛んできた。 「こら!!おまえたち、さっきから何喋ってんだ?! まだ、片ずけ終わってないんだろ?! それに、明日の仕込みもあるんだぞ! とっとと終わらせちまえよ!!」 声の主はこの店のトップ、佐藤料理長だ。 「あ、はい、すいません。佐藤さん! 直ぐに終わらせます! とりあえず、おまえたち二人はホールで構わないからそのさば寿司持って行って食べて来い。」 河村が慌ててエリカたちをホールに追いやると、作業を始めた。 「ねえ、この辺でいいんじゃない?」 二人は、今は全く誰も居なくなっただだっ広いフードコートのテーブルに腰を落ち着けた。 エリカたちが座った直ぐ側には、今このフードコートで一番人気のチャイニーズレストラン『PANDA EXTREME』があった。 その壁には、あの有名な大きなパンダのロゴが。 二人はちょうど向かい合わせで座った。 萌がパンダを背にして座っている。 すると、さば寿司を頬張りながらエリカが少し身を乗り出した。
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