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「え!何よ、気になることって?」
「確か、三日前だったかな……。いつも仕込んでる南蛮の鶏肉、奥の冷蔵庫に入れてるだろ?」
「ええ、それがどうしたの?」
「いや、それがさぁ〜、翌日朝出勤していざ出そうと思ったら、一番上のバットだけ異様に軽いんだよ。
おかしいなぁと思って蓋を開けたら、ムネ肉が半分以上減ってたんだ。」
平尾 修二はチキン南蛮の店 ”うまいねえ. JP“ が担当だ。
「ん〜〜、それはちょっと……。修二さんの勘違いじゃないの?
前の日の夜使ったのを忘れてたんじゃない?
けっこう前日の夜、お客さんが多かったとか。」
「いやあ〜〜、でも忙しかったとしても、平日の夜でそんなに鶏肉使う訳ないし………。で、でも、それだけじゃあないんだ。」
と、その時別の声が二人の会話に割り込んで来た。
この店のトップ佐藤料理長だ。
「お、おい!聞こえたぞ!平尾。何?鶏肉がなくなってたって?
そんなの黒田の言うように、お前の勘違いだろ?
他にどんな理由があるって言うんだ?」
料理長にも加勢されバツの悪そうな平尾であったが、なおも食い下がった。
「で、でも、聞いて下さい!そ、その時、冷蔵庫の周りを見て回ったんです。そしたら、前日捨て忘れたダンボールが置いてあったんですけど。
そ、そこに足跡が残ってたんです!」
「あ、足跡〜〜?何の?もしかして、野良ネコとか?
でも、夜間フードコート内は当然施錠される訳だし、野良ネコ一匹入ってこれる訳ないわよ。」
黒田マネージャーと佐藤料理長の少し小馬鹿にした表情にもめげず、平尾は話しを続けた。
「い、いや!全然大きさが違う!ネコのなんかじゃない。もっと全然大きかったんです! その大きな足跡がいくつもダンボールに残ってたんですよ!
も、もしかすると、あ、あのパンダの仕業じゃないかと思って。」
平尾の断固たる主張にも怪訝な表情で、お互い顔を見合わせる黒田マネージャーと佐藤料理長。
暫く押し黙った後。
唐突に、佐藤料理長が口を割った。
「お、おい。でも、待てよ。パンダって肉食か!? 鶏肉なんか食うのか!?
だいたいアイツら、普段笹の葉食ってんじゃないのか!?」
よく通る野太い料理長の声に、この日三回目、周りのスタッフが一斉に振り向いた。
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