第一章 魔法祭で負けてたまるものですか

10/61
前へ
/259ページ
次へ
 わたしは少し状況的にあまりよろしくないことに冷や汗が流れる。  何故ならわたしには今護衛騎士が一人もいない。  だが取り巻きたちもわたしに危害を加えることに躊躇が見える。 「流石に、わたくしに手を出せば貴族社会どころか、生きることもできなくなりますわよ」  わたしの言葉に取り巻きたちは狼狽えた。  だがリーダー格の男が余計なことを言う。 「お前たち臆すんじゃねえ! マリア様は強大な魔力をまだ扱えない。それにどういうわけか護衛騎士を一人も付けずにここにやってきた。ここでアクィエル様のご機嫌を取れば、俺たちは逆に重宝されるはずだ!」  リーダー格の男の言葉で取り巻きたちも決心をして、完全に逃げ道をなくす。  リーダー格の男は腰に身に付けているベルトに差している筒を取り出す。  その筒から光の刃が現れた。  右手で光の剣を持ち、左手でわたしを掴もうと手を伸ばす。 「マリア様も痛い目にはあいたくないでしょ。大人しくしとけば手荒な真似はしませーー」  パシッと、ルージュがリーダー格の男の手を払いのけて、光の剣を持ってわたしの前に立つ。  他の二人も光の剣を持ってわたしの背後を守るように立つ。 「き、きさま! たかだ下級貴族の分際で上級貴族であるわたしの手を叩くのか!」 「我々の領土のことだから甘んじて受けたが、我らが主人に狼藉を働くことは許さない! 我らはシルヴィ・ジョセフィーヌの剣であるパラストカーティの貴族である。ここで主人を守れずして何が剣であるか! ルブノタネ様が他領の上級貴族であろうとも関係はない!」  さっきよりは人数差は縮まったけど、流石に下級貴族の魔力量なんかじゃどうにもできない。  ……どうしよう、どうしよう!  助けて、セルラン!  わたしはどうにかこの状況を打破するための方法を考えるが何も思いつかない。  このままでは憎っくきアクィエルに何をされるかがわからない。  おそらく今回の件を証拠を消してもみ消すだろう。  少しずつ、取り巻きたちが距離を詰め始めた。 「ぐへーー」  突然、階段から強力な水の濁流が取り巻きの一人を吹き飛ばす。  魔法が放たれたことは一目瞭然。  全員が階段から誰が上がってくるのかに注目する。 「やれやれ、姫様を拉致しようなどと馬鹿なことを考える貴族がいましたか」  階段の方から怒気のある声を出しながら、紺碧色のマントを揺らしてわたしの教師であるクロートが登ってくる。  眼鏡を掌底でクイっと上げて、さらに魔法でルブノタネ以外の取り巻きたちを吹き飛ばす。 「くそっ! 何をしてやがる! たかだか一人にやられるんじゃねえ! 「おや、わたしの髪が見えませんか? マリア様と同じく魔法の才の証ですから、そこにいる者たちでは意識を保つことなどできませんよ」 「そんなのおとぎ話だろ! 」 「バカと話すのは疲れますね。なら簡単な勝負で決めますか、決闘でね」  ……ちょっと、遊んでないで早く片付けなさいよ!  相手は上級貴族よ!  もしもがあったらどうするのよ!  わたしはもどかしい思いがあるが、クロートに全部任せることにした。  正直、クロートがどうにかしてくれないとどうにもならないのだ。  それにあれだけ自信満々ならどうにかしてくれそうな気がした。 「決闘、はは決闘だと! いいだろう。お前のその髪がまやかしだと証明してくれる!」  二人は四歩分離れた距離で両手を前に突き出す。  お互いの魔力を高めて、ドーム状に魔力を広げていきぶつける戦いだ。  単純に魔法の力量がそのまま出る、簡単な決闘だ。  魔法の展開する早さと込める量を瞬時にやらないといけないため、どっちがダメでもいけない。  合図はクロートに、とルブノタネが譲る。 「ではよーいはじめでいきまーー」 「ばーか、遅いんーーーぐええええ」  ルブノタネはフライングで先に魔法を展開しようと始め、薄い膜が出たと思ったが、発動が遅れたクロートがそれよりも早く魔法を出して、そのまま膜に弾かれて寮の扉ごと吹き飛ばされた。  扉が壊れたことで、音を聞きつけたビルネンクルベの学生たちが野次馬のようにやってきた。 「何事だ、これは!」  ビルネンクルベの寮監もやってきた。  こうなるとわたしは長い時間説明をするために捕まってしまう。  こうなったら全部ここにいる者たちに任せるしかない。 「これは寮監長殿。御機嫌ようございます」 「ま、マリアさま! 一体なぜマリア様がこのようなところにいらっしゃっているのですか? それに扉を吹き飛ばすほどの魔力の解放なんて危険にもほどがありますぞ! パラストカーティの件で意趣返しでございますか!」 「これは正当防衛なんです。あなたの寮生がわたくしに危害を加えようとしたのですが、ここにいるわたくしの配下の者のおかげで大事なく済みました」  わたしは悲しそうな顔を作って、大変可哀想なヒロインとなる。  それを見て寮監も強く言えなくなる。  クロートはわたしの言葉を代弁する。 「本当に意趣返しならこんな人数ではしませんよ。それよりもまず謝罪が先ではございませんか? 五大貴族である姫様を拉致しようとしたのです。領主にも責任を取ってもらわなければなりません」  クロートの言葉に寮監は青ざめる。  五大貴族はこの国では王と変わらない権威を持つ一族。  それも次期当主となるのが絶対視されているわたしを拉致しようとしたのなら、軽い罰では済まない。  だがわたしはそれでは困る。  このままではここで事情説明のせいで時間がかかり手紙の内容を遂行できない。 「ですが、わたくしも皆さんに罰が下ることは望んではいません。今回のビルネンクルベのことを不問としてくだされば今回はこの場だけの秘密としておきます。ルートくんと残りの二人は今回の経緯を寮監とここにいない領主に説明してください」 「かしこまりました。あのマリア様、今回はありがとうございました。助けてもらっただけでなく、このようなバッジもいただけて感謝の言葉もありません」 「ほう、それはマリア様のバッジですね。特に新しい者に配るとは誰も言っていませんでしたが」  ……やばい、そういえばあのバッジあげてたの忘れてた。  クロートの視線が鋭く突き刺さる。  本来、事前に根回しをしてから配下へのバッジを渡さないといけない。  緊急とはいえお説教は免れない。  とりあえず今を乗り切るしか無い。 「ルート君たちは明日一の鐘と二の鐘の間にわたくしの部屋までいらっしゃい。クロート、側近たちにも召集をかけておいてください。それではみなさん、わたくしはこれで失礼します」 「ええ、ぜひとも明日は聞かせていただきます。では皆さまわたしも姫様の護衛がありますのでこれにて失礼致します。よろしいですね、姫さま?」 「もちろんよ、護衛がなければ危ないじゃない」  わたしとクロートは一礼して、ビルネンクルベの寮から離れた。  階段を降りながらわたしは一つのことでいっぱいだ。  ……どうやって実験場へ行けばいいの!  助かったけど、このままじゃ寮へ連行されるしかないじゃない!  階段を下り終えて、わたしはクロートに向き合う。 「お願いがあるの、クロート」
/259ページ

最初のコメントを投稿しよう!

469人が本棚に入れています
本棚に追加