第二章 騎士祭までに噂なんて吹き飛ばしちゃえ!

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 その日の会食も終えて、一度部屋へと戻った。  側近たちはわたしのことを心配していることだろうから、早く部屋に戻ろうとする。  しかし、セルランから話があると止められた。  全員が部屋から出るのを待ってから二人っきりで話をした。 「どうかしましたか?」 「姉上がとんだ無礼を働きました。そしてそれを止めなかったわたしに何か罰をお与えください」  セルランは跪いてわたしに罰を願った。  あの場では完全にヨハネに主導権を握られたので、誰もが動けなくなっていたのだ。  たしかに護衛騎士としては失格かもしれないが、今回は特に何か罰するつもりはない。 「セルラン、もし少しでも責任を感じるのなら、それを忘れないようにしなさい。いずれヨハネと全面的に戦う可能性があります。その時には貴方が彼女の首を刎ねるかもしれませんのよ」  ビクッとセルランの体が震えた。  彼もまたヨハネに縛られる者だ。  実の姉に勝てるビジョンがないのだろう。  これもわたしとヨハネの能力の差が生み出す呪いだ。  わたしはセルランの頭を抱き寄せた。  いきなりのことでセルランは慌てたがわたしをどう離させるかわからないようで、ただ声を上擦らせるだけだった。 「ま、マリアさま」 「もう、動いてはダメです!」  わたしはめっ!と怒ると言われるままに大人しくした。  自分も同じように心を折られかけたので気持ちはわかる。  だからわたしが主人として彼の気持ちを癒してあげないといけない。 「セルラン、貴方は高貴なる騎士の中の騎士です。たとえ神の敵が来ても、貴方の盾を破ることも剣を防ぐこともできないでしょう。そして貴方の主人はまだ頼りないかもしれませんが必ずヨハネからこの領土を守ってみせます。わたくしを信じてください」 「主人の行うことを信じない騎士などおりません。ですがどうか気をつけて下さい。わたしの姉は人間ではない。神と等しい知恵を持っている。ですが貴女さまならいつかそれに届くことと信じております」  どうにかセルランも落ち着いてくれた。  お互いにあの女には辛い古傷がある。  それでもずっと負けているわけにはいかない。  セルランから離れると彼の頬は耳まで赤くなっていた。 「ち、違うのです! これは!」 「ふふ、もうこの年だと恥ずかしいですね。じゃあ戻りましょうか。ラケシスが騒いでいるかもしれません」  わたしとセルランは一緒にわたしの部屋まで戻った。  すぐに側近全員を招集した。  みんながわたしを心配していたようで入室して体の不調やなんやを聞かれた。  全員が揃ったところで情報の共有を行なった。  全員が顔を真っ青にしている中ラケシスだけは手をつぼみのようにして頬を覆う。 「ああ、見てみたかったです。ヨハネさまに果敢にも挑む姫さまのお姿」 「ヨハネさまと真っ向から対決ですか。これはわたくしたちも覚悟を決めないといけませんね」  ラケシスとは真逆の反応をみせるレイナにラケシスは文句を言う。 「何をそんな悲観的になっていますの。いい機会ではないですか。これで邪魔な勢力が一掃されます」  ラケシスはまだヨハネのことを人伝にしか聞いてないので他の者と反応が違う。  しかしこれくらい大きなことを言ってくれる者が一人いるだけでも変わるものだ。 「ラケシスの言う通りです。明日が本当の山場です。明日は側近全員の出席を命じます。わたくしだけではまだヨハネには勝てません。ですが全員の知恵が集まれば、たとえヨハネといえども太刀打ち出来るはずです」 「かしこまりました。わたくしは一度失敗した身。ここで汚名返上させていただきます」 「右に同じく」  リムミントは一瞬の迷いなく戦うことを承諾した。  彼女も今回の一件で成長したのだろう。  体の震えはなんとかギリギリ止めているようだ。  アスカもここで挽回することを決めていたようでわたしと共に立ち向かってくれるようだ。  レイナがわたしに笑顔を向けていることに気が付いた。 「どうかしました?」 「いえ、やっとわたくしに戻ったなと思いまして」  そういえば犯罪組織に紛れるため、わたしと言うようになっていた。  上品なわたくしの方がいいと、ジョセフィーヌ領の女性には徹底させたのだ。 「心配をおかけしましたね。でも今日から側近たちにも頑張ってもらいます。わたくしだけではやはりどうにも出来ないことが多いようです」 「お任せください、わたくしもラケシスも準備はしてきたつもりです」 「ええ、なんなりとお申し付けください」  レイナとラケシスも気合十分で了承してくれた。  わたしは残る下僕に問いかけようとすると、セルランの声が響いた。 「マリアさま、あねう……、ヨハネ・フォアデルへが入室を希望しております」  全員に緊張が走った。  今日喧嘩を売ったばかりにも関わらず、よく来られるものだ。  わたしは深呼吸して全員を見渡した。  全員が頷いて了承してくれたので、わたしはセルランに命令した。 「追い返しなさい!」 「「マリアさま!」」  怖いものは怖いので追い返そう。  しかし全員から総ツッコミが入った。  わたしは仕方なく、ヨハネを部屋へと招き入れた。  またもや泣き真似をしている。 「シクシク、ひどい。せっかく可愛い従姉妹の顔を見に来たのに追い返そうとするなんて」 「貴女と会いたくないからです。道に迷ったのなら衛兵を呼びますのですぐに帰って下さい」 「もう本当に大丈夫のようね。よかった、虚勢とかだったらどうしようと思ってたの。まあわたしを騙せる人間がいるのかは疑問ですけど。あの一瞬で何かしら秘策を思い付いたのは気付いているの。だから貴女と話がしたかったの」  ヨハネは真面目な顔でわたしにそう言った。  ここで舌戦はあまりしたくないが、今なら予行練習になるだろう。 「それでどんな話がありますの?」 「ねえ、次の王さまが誰になるか知っているかしら?」  いきなり王族の話へと飛んで意図が掴めない。  まだ王さまは若くて健康なのだから、王位継承権一位はウィリアノスさまのお兄さまだが、王さまが替わるのは先の話だ。 「どうやら何も知らないようね。どうやらガイノアスがもうじき王さまになるかもしれないらしいわよ」  わたしはまさかの人物に頭が追いつかなかった。
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