第二章 騎士祭までに噂なんて吹き飛ばしちゃえ!

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 わたしたちが話し込んでいると、学生たちが踊りを行うためどんどん下へと行っている。  見学しか許されていないのでわたしはここにいるしかない。 「二人も行かないといけないでしょう? 長話してごめんなさいね」 「とんでもございません。またお茶会をお楽しみにしております」 「マリア姉さま、またお話しできる時を楽しみにしていますね」  アリアをよしよしとしたくなるのを堪えて見送った。  ラナとアリアは衣装に着替えないといけないので、少し早足で向かっていくのだった。 「俺も行くか」  ウィリアノスさまは少し嫌々ながら向かおうとしたので、わたしの笑顔で気分を変えようと声を掛けた。 「いってらっしゃいませ。マンネルハイムを楽しみにしております」 「残念だが今日は参加しないんだ」 「え?」  騎士祭のマンネルハイムをいつも楽しみにしているウィリアノスさまが参加を辞退しているとは思わなかった。  わたしは早くその情報を教えて欲しかったとサラスを見たが、首を振って全く知らなかったと言っている。  一体どうしたのやら。 「どこかお体が悪いのですか?」  未来の旦那さまの体調にすら気付けないようでは愛想を尽かされてしまう。  だがウィリアノスさまは首を振って否定した。 「そうではない。父上から今回の参加は止められたのだ」 「国王からですか? どうして今回だけ」  今まで参加していたマンネルハイムを何故今回だけ出場を禁止になったのか。  ウィリアノスさまの顔を見る限り納得しているわけでもない。 「俺が聞きたいくらいだ。ガイアノスも王宮に戻ったきり帰ってこないし、俺の知らないところで何をやってるのか」  わたしはそこでヨハネが言っていたことを思い出した。  ガイアノスが王になるかもしれないと言っていたが、わたしはそんなわけがないと聞き流していた。  ……まさかね、あのガイアノスがなるわけないわよね?  しかしウィリアノスさまが知らないところでガイアノスだけ呼び出されるなんて、これまでの行いを罰する以外に考えられない。 「そういうことで俺は参加はしない。着替えもあるので行ってくる」  わたしは一人なったところで席に座ってじっとしていた。  するとまた馴染みのお客さんがきた。 「マリアさま、お久しぶりです」  ヨレヨレの白衣を着てやってきたのはホーキンス先生だった。  ゴーステフラートの伝承を解放してからしばらくぶりだ。  顔に隈ができているのに前よりも生き生きしており、寝不足なんぞどうでもいい様子。 「上機嫌ですね」 「もう研究が進みすぎてこれまでの停滞が嘘のようですよ。それとマリアさまにいい情報もあったんですよ」 「わたくしに?」  ホーキンス先生が渡してきた紙には、魔法について書かれていた。 「これは?」 「よくぞ聞いてくださいました! 」  ホーキンス先生が弾けたように大声をあげるので周りもわたしに注目した。  恥ずかしいのでやめてほしい。  サラスが咳払いして、ホーキンス先生に苦言を呈する。 「ゴホン、相変わらずですね、ホーキンス先生」 「ん、っげ。サラスさん。気付かなかった」 「貴方の性格はよく知っていまおりますが、ここが研究所ならどのようなことをしようと構いません。しかし、ここは五大貴族のお席の前。そのような姫さまの品性を疑われるような言動はわたくしが絶対に許しませんからね」  サラスの恐さをホーキンスが知っているとは思わなかった。  ホーキンスは詰め寄られ、あまりの恐さに自分から謝罪した。 「わかりました! 気をつけます!」 「二度はありませんからね」  一体なんでホーキンスはサラスの恐さを知っているのだ。  まあ、特に興味もないので聞くことはしないが。 「それでホーキンス先生、いい情報とはなんですか?」 「よくぞきい……、お聞きいただきありがとうございます。僭越ながら説明させていただきます」  ……だれ!?  サラスのひと睨みでこれまでとは打って変わった。  気持ち悪いので戻ってほしいが、サラスのいる前でそんなことを言ったらわたしにも説教がくる。 「マリアさまは五大貴族専用の魔法を継承されていますがお間違えないですね?」 「え、ええ。そうですね」 「その魔法はどうやら不完全な魔法のようです」  わたしは驚愕の新事実に一瞬頭が固まった。 「どういうことですの?」 「魔法は詠唱を唱えないといけませんがどうやら五大貴族の魔法は本来はもっと長いものでした。長い歴史の中で本来の形が失われたようです。しかし本来の詠唱はただ唱えただけでは発動しないようでして、使えるのは蒼の髪を持ったマリアさまだけみたいです。さらにいえば、マリアさまを筆頭に複数の踊りと魔力がないと発動しないものです。おそらくは蒼の髪自体が久しく現れなかったため、簡易の魔法しか残らなかったのでしょう」  わたしはそこで疑問があった。  いくら使わない魔法だろうと管理がそこまで杜撰になるだろうか。  いつかまた現れるかもしれないのに、それも五大貴族の魔法を継承せずに忘れ去られるなんて。 「何かしらで使うかもしれませんのでその紙に書いている詠唱は覚えていたほうがいいかもしれません。それとマリアさまが奉納してから、不思議な柱が複数現れたそうです」 「柱ですか。一体どのような意味があるのですか?」 「まだわかりません。一体これが何なのか、調査が必要みたいなので、また何かあったら報告します」  まだまだこの伝承については謎が多すぎる。  一体これからどんな変化が起きるのか、各領主たちから調査報告がくるのを待つしかないのだ。  わたしたちが雑談をしているともうすぐ開会式が行われるようで、観客もかなり多くなっていた。  ホーキンスは一言告げて自身の研究所へ戻るようだ。  そして開会の言葉を国王が話し始める。 「皆の者、これから騎士祭を開催するがその前に報告することがある」  一体何事かと全員が国王の次の言葉を待った。  国王のとなりに思いがけない人物が現れた。 「ガイアノス?」  何故だか正装を身に纏い、いつもよりはまともに見える格好をしている。  しかし今日は彼の誕生日ではないはずだが。 「ガイアノスは今後王位継承権第一位となり、わたしの次のドルヴィを受け継ぐことになった。今日この場を借りて報告させてもらう。ガイアノス、将来付き従う者たちに言葉をかけなさい」 「っは! ドルヴィから次代の国王および法皇の座を受け持つ予定のガイアノス・デアハウザーである。父上に負けないよりよい国を作っていくゆえ、今後はそなたらの忠誠をわたしに向けてほしい。光の神デアハウザー、闇の神アンラマンユに祝福あれ!」 「「祝福あれ!」」  全員が一応形式通り答えたが困惑があった。  まさか問題児のガイアノス  が次期国王などと何の冗談だ。  一瞬ガイアノスと目があった。  わたしはゾクッと背中に何か感じるものがあったのだった。
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