第三章 芸術祭といえば秋、なら実りと収穫でしょ!

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 今日は騎士祭の後なのでしばらく授業はないが、これまでの遅れを取り戻すべくピエールの猛勉強が始まっていた。 「姫さま、気合いを入れていきましょう! ラム歴841年で襲ってきた蛮族の族名!」 「カルマル蛮族! 」 「おお、いいですな。ではもっと行きますぞ! 忠義の斧と槍の乱の各領主名は?」 「バラガス・パラストカーティとヒューラルス・ビルネンクルベ!」 「おお、しっかり勉強なさっておいでだ。すばぁらしいいい! このピエール感動しましたぞ!」  ピエールは暑苦しいが褒められるのは嬉しいものだ。  忙しい中でも勉強はしっかりやったのだ。  特に歴史と算術は任せてほしい。  各地の特産を覚えたり、帳簿を見たりしているので得意になったのだ。  わたしは百年前の内乱を見ていつも疑問だったのだ。  この機会に聞いてみよう。 「そういえば忠義の斧と槍の乱ですが、原因は本当に欲を掻き立てたためなんでしょうか」  歴史を思い返してみた。  パラストカーティは元々は貢献度二位だったと聞く。  猛虎伏草の槍神、たとえ目や耳を潰したとしても隠すことのできないジョセフィーヌの剣と呼ばれるほど領地が強かった。  しかし、今から三百年前に天災が起きてからは食糧難が起きた時にどの領土よりもダメージが大きかったのだ。  それでも中領地になりながらも、多くの騎士たちを輩出した。  だが土地にさらなる異変が起きた。  原因は魔力不足だ。  昔の神はそこまで魔力がなくても土地を潤すことができたが、何故だか三百年くらいから神の要求する魔力が増えたのだ。  最初は余裕があるとおもっていたが、二百年前にはとうとうこちらの総魔力を超え始めた。  本来五大貴族は魔力供給は行ってなかったが、足りなくなる状況では五大貴族も手伝わねばならない。  それでも五十年しかもたなかった。  また総魔力が足りなくなり、土地が痩せ始めたのだ。  そして事件の始まりがあった。  土地が痩せ細っていく現象を止めることができなかったが、フォアデルへで本物の神の名が示された聖典が見つかったのだ。  聖典に書かれている光の神と闇の神が全く違かったのだ。  一度神への名前を変えて魔力を送ると前よりも土地に魔力が向かったのだ。  それによって少しずつだか、必要な魔力量が少なくなっていき、神へ送る魔力がもっと多くなれば神が満足して、次第に魔力不足はなくなるだろうと言われている。  その聖典をもっと広めようとフォアデルへが動いていた時、あろうことかパラストカーティがフォアデルへに攻め込んだのだ。  しかしどうにか隣の領土であったビルネンクルベが止めていたおかげで、フォアデルへは無事であり、王が率いる騎士団と二代前のジョセフィーヌの領主がその時のパラストカーティの領主の首を取れたのだ。  連累でほとんど殺されたが、まだ赤子だったパラストカーティの末っ子だけは魔力が高かったため、次期領主となるため、厳しく育てられたと聞く。  フォアデルへがまだ秘密を持っているのではないかと疑って、昔の繁栄のため欲を掻き立てすぎた領土の末路として、現在では広まっている。 「歴史上ではそうなっております。ですが真実はその時代に生きており、その中心の人物だった者にしかわかりません。先人たちが遺した遺産では結果しかわかりようがないのです。だから色々な者が見たことを書いた書物をたくさん読むのです。様々な角度から今を俯瞰して見る。わたしたちはそれをする能力を求められています。だから姫さま、いつまでも学びを忘れないでくださいませ」 「そうね、ありがとうピエール。もっとわたくしが良い当主になれるよう頑張ります」  わたしは拳を握って、よしっ、と気合いを入れた。  そこでピエールが泣いていた。 「ちょ、ちょっと、大丈夫ピエール!」  どこか痛いところがあるのかと心配して席を立った。  だがそれはいらぬ心配だったようだ。 「姫さま素晴らしい! もうわたしは姫さまの成長が嬉しくて……嬉しくて……」  ただの男泣きだったのでホッとした。 「もうピエール……」  わたしも何故だか目がうるうるしてきたが次の言葉で吹き飛んだ。 「では、今日は勉強時間を増やしましょう! こんな素晴らしいやる気があるのに少しの勉強ではもったいない。すぐサラス殿に許可を取ってきますのでしばし待っててください!」 「えっ、いや、それはやめーー」  わたしが制止をかける前に自分の体に身体強化の魔法をかけて部屋を飛び出していった。  わたしが口を開けて呆けている間に帰ってきて、白い歯をみせて元気よく答えた。 「今日は五の鐘の少し前までの時間をすべてもらってきました! 」  ……朝から夕食までじゃない!  わたしはがっくりと肩を落としたのだった。  そして夕食の時間となった。 「失礼します。お姉さま、よろしければ食堂まで一緒に……キャアア!」  レティアが私の部屋に入ってきてすぐ大きな悲鳴をあげた。  声を聞いて、ステラが入ってきた。 「何か非常時でも……。こ、これは!?」  ステラもセルランと護衛を交代したばかりで知らなかったのだ。  わたしは完全に燃え尽きた。  机の上で死にかけのようにテーブルで倒れていた。 「レティアさま、もう少しお待ちくださいませ。どうやらピエールの熱血授業を一日中受けたみたいで、まだ回復しきっていないそうです」  レイナが代わりに答えてくれた。  ピエールの授業は受けた者にしかわからない疲れがあるのだ。  口から魂が出かかっている感じだ。  ……レティア、もう少し待っててね。
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