第三章 芸術祭といえば秋、なら実りと収穫でしょ!

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 わたしはユリナナに尋ねた。 「ユリナナさん、確認したいのですが、貴女は想いをお寄せている方がいらっしゃると言うのは本当ですか?」  わたしがそう言うと、一度ユリナナは目をつぶって深呼吸をして、再度目を開けた。  そしてわたしの言葉に頷くのだった。 「はい。ゼヌニム領の第三都市、リントブルムを治めるレンオアム・リントブルムさまを心よりお慕いしております」  どうやら噂については事実のようだ。  だがわたしも考えた。  確かに彼女の恋を応援してあげたい。  だが一個人のために領土を巻き込んでしまうのはいいことなのかと。 「まあ、そうだったのですね。そういえば前にずっと待っている人がいると、パーティーの時に言っていた気がしますが、あれはユリナナさんだったのですね。それなら、それこそゴーステフラートはゼヌニムに来た方がいいわ。こちらの領土に来たらわたくしが色々手を回してあげますのでご安心してくださいね」  アクィエルはユリナナの手を握って、派閥入りの約束をした。  いろいろな制約はあるがこれで守られたも同然だ。  ユリナナはパーッと笑顔になった。 「ありがとうございます。アクィエルさまに守っていただけるのなら、どんな盾よりも安心でございます」  ユリナナにとってはいい話のようだが、わたしはゴーステフラートを渡すつもりはない。 「残念ですがその約束は叶いません。わたくしがゴーステフラートを手放しませんので。一人のために領土を捧げるなんてことはできません」 「まあ、お酷いこと。こんなに恋を苦しんでいる子に一生生き地獄を味わえとそうおっしゃいますの?」  アクィエルは真剣な顔でわたしの意見を否定した。  だがわたしは一つの秘策があった。 「いいえ、わたくしも恋の辛さは分かります。いつもその方を想うユリナナさんの気持ちは誰よりも分かっているつもりです。だからアクィエルさんにお願いがあるのです」 「わたくしにですか? マリアさんがわたくしにお願いなんて珍しいこともあるのですね」 「ユリナナさんの恋が叶わないのはひとえにジョセフィーヌとゼヌニムの確執のせいです。それならば、一度わたくしたちのわだかまりを解消することが一番の手です。だからこちらの三領土とそちらの三領土を呼んだ、大規模なお茶会をしましょう」  わたしの宣言にアクィエルとユリナナは大きく目を見開いていた。  もともとそのつもりだった。  側近たちとも話し合ってこの会を決めたのだ。  わたしがこの子たちを導く者として、その器を示さないといけない。 「さすが、マリアさん! 面白いことを考えます。わたくしは一向に構いません。面白くなってきました。あなたたち、今の話を聞きましたわね! 大至急全領土に伝えなさい! アクィエル・ゼヌニムの名において命じます。各領土は代表者を二人選出してこのお茶会に出席しなさいと。もしわたくしの命令に従わないのなら、お父さまに伝えてくださいませ」  アクィエルはわたしより容赦はない。  おそらく領主の座が一つ空くことになるだろう。  だがまさかこれほどアクィエルが乗り気になってくれるとは思ってもみなかった。 「言っておきますが、わたくしは特に協力はしませんわよ。だってゼヌニムにゴーステフラートがくれば何も心配など要らないのですから」  アクィエルの目が光ったかのように感じた。  これまでお間抜けな姿ばかり見せてきたが、これでもわたしのライバルを気取るのだ。  ここぞというときには本領を発揮するので、ガイアノスよりは好感は持てるが、それと同時にわたし自身この子に負けたくないのだ。 「ありがとうございます。こちらも代表者を二人選出する旨を伝えましょう。ユリナナさんは何か意見がありますか?」  ユリナナは一度深く考え、わたしを見た。  喉を鳴らして、汗をかいているのがわかる。  おそらく重圧を感じて、その言葉を出すのも大変なのだ。 「意見はございませんが一つだけお聞きしてもいいでしょうか」 「ええどうぞ」  ユリナナは決意したようで重い口を開いた。 「ゴーステフラートは何もない土地です。おそらく今後は魔鉱石の発掘が出来ているシュティレンツに負けることでしょう。マリアさまの影響力を考えれば数年以内に順位の逆転が起こります。それなのにどうしてそんなにこだわるのですか? 二つの領土になれば、魔力不足のほとんど解消されます。わたしたちに送っていた魔力が不要になるのですから」  わたしはやっと彼女の不安が恋以外にもあることに気が付いた。  それは領主の娘としての重圧としてのしかかっているのだ。  ヨハネと一緒に来たアビ・ゴーステフラートも辛い顔をしていた。  彼女はただ恋のためだけにゼヌニムを選んでいるのではない。  ただ領地についてずっと頭を悩ませていたのだ。 「ゴーステフラートが何もない……ですか。わたくしはそうは思いません。ゴーステフラートは食に関して特産物はたくさんあります。確かに他領よりは輝かしい特産はないかもしれません。しかし、だからこそゴーステフラートは他領よりは上をいけるのです」 「どういう意味でしょうか? 一体どう考えればわたくしの領土が素晴らしいと思えるのでしょうか。ずっと地味だ、特徴のない真ん中を維持する普通の領土だと言われて、どこに他領に勝てるところがあるのですか!」  ユリナナの言葉が乱れた。  ユリナナはわたしの言っている言葉の意味が理解できないのだ。  わたしも前まで同じような評価をしていた。  だがそれは大きな間違いだと気付かされた。 「ユリナナさん、大きな力を持っている領土が上位領地になるのではありません。たとえシュティレンツやパラストカーティが特産に関しては上でも、それの受け皿になってくれるゴーステフラートがいて初めて経済が回るのです。時代はもう力や魔力の差ではありません。経済を回す領土こそがこの国を支配するのです」  ユリナナはずっと領地の嫌な話しか聞かされておらず、苦しんできたのだろう。  それなら正しい情報を与え、わたしの庇護下にいるのなら何も心配することがないことを伝えなければならない。  ユリナナの顔に冷静さが戻り始めた。  わたしは彼女の手を握ってあげた。 「もうあなたの領土は特徴を持っているのですよ。そしてこれからはジョセフィーヌの領土をまとめてわたくしを支えてください。地盤が固まるまではわたくしがサポートします。そしてこのお茶会を通して、貴女の恋についても必ず実らせます。だからもうしばらくわたくしに時間をください。どうか笑って待ってくださいませ」  ユリナナはこれ以上言葉を出せなかった。  ただ涙を流して、わたくしとアクィエルは席を立ってその場を離れた。  今日のお茶会は終わったのだった。
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