第三章 芸術祭といえば秋、なら実りと収穫でしょ!

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 訓練場へステラの水竜に乗って向かった。  するとヴェルダンディがちょうど外に出てこようとしていた。 「マリアさま、ちょうど呼びに行くところでした!」  慌てた様子でいるヴェルダンディに何か予期せぬことが起きたことを察した。  わたしは水竜から降りて事情を聞いた。 「そんなに慌ててどうしたのですか?」 「それがパラストカーティとビルネンクルベが喧嘩を始めそうなんです!」  今起きてはいけないタイミングで問題が発生したことで、自然と苦い顔をしてしまう。  もうすぐお茶会が開催されるのに、ここでお互いに喧嘩をしていては結果は見えている。  わたしは急いで訓練場へ入った。 「パラストカーティごとき弱小の領土がマリアさまのお力を借りた程度にいい気になるな!」 「そちらこそ自分より立場が弱い者しか相手にできないくせに、何が忠義の斧か。ハイエナの斧でも言い直せ!」  メルオープはビルネンクルベの代表者と口論していた。  だがお互いに口論でいられるのも今だけだろう。  その後ろにいる学生たちもどんどん殺意を出している。 「双方やめろ! これ以上の行いはマリアさまといえども庇いきれない」  ルキノが間に入って止めようとした。  だがそんなものでは止まりはしない。  メルオープはトライードを槍へと変えた。  対するビルネンクルベの生徒は斧へと変えた。 「止めないでください、あの内乱はこのビルネンクルベのせいで先祖から我々までずっと苦渋を舐めることになった。今ここで先祖の無念を晴らす」 「また妄言を吐くのか。歴史が証明しているだろう。お前らの先祖は欲をかいて報いを受けたのだ。まずは反省を学ぶのだな」  お互いの殺意がどんどん伝染していく。  ゼヌニムと仲の悪さを象徴するのは特にこの二領土だ。  もしここで争いが起きればもうお茶会は不可能だ。  止めなければ! 「双方武器をおさめよ!」  わたしの言葉を聞いて両者止まった。  流石に怒りよりわたしの言葉の方を優先するくらいの理性は残っているようだ。  上位者としてこの場をおさめてみせる。 「メルオープ、なぜ今このように領土間で連携が強まっているのに他領に喧嘩を売るのですか?」  まずは自領であるパラストカーティに責任を問う。  だがメルオープは原因はビルネンクルベ側にありと言った。 「こいつらはこちらの学生を数人大怪我をさせたのです。ルージュたちも被害を受けて、しばらく安静にしないといけない。我々はこのような差別を受けて黙っていないといけないのですか!」 「何ですって?」  一瞬怒りで魔力が出かけたが、なんとか制御できた。  わたしは今の話の真意を聞くためにビルネンクルベに目を向けた。  ビルネンクルベは先ほどの怒りを忘れたのかと思うほど全員がわたしに対して畏怖の目を向けていた。  それはパラストカーティもだ。  普段怒らないわたしだが流石にこのような横暴をされて黙っていられるほど、ただのお姫さまではない。  ビルネンクルベ側はすぐに弁明し始めた。 「そ、そんなわけがない。デタラメを言うな!」 「デタラメだと? 軽傷だった者がお前たちのマントの色を見たと言っている。見苦しい言い訳するな!」  メルオープは即座に否定した。  だが次は相手も反論してきた。 「そっちこそ、我々の学生を何人も怪我を負わせただろ! しっかりお前らのマントの色を見たと言っているのだ」  ……どういうこと?  わたしは一度メルオープを見ると彼にも動揺が見られた。 「う、嘘をつくな! マリアさまの前で嘘を吐くなどもう許してはおけん」  このままでは互いにぶつかってしまう。  再度武器を持ちかけたところで、わたしは再度静止の言葉をかけた。 「わたくしは武器を収めよ、と言いませんでしか?」  何度言ってもわからないのならこちらも分からせるしかなくなる。  だがお互いに武器を落としてその場で膝をついた。  やっと立場の差をわかってくれたようだ。 「双方の主張は分かりました。ですがお互いに食い違う以上、一度事実を集める必要があります。もし仮にどちらか一方でもそのような蛮行を行ったのならジョセフィーヌとゼヌニムの問題にもなります。話し合いの場を設けますので、一度調べてみなさい。それとパラストカーティとビルネンクルベ、両者にはジョセフィーヌとゼヌニム主催のお茶会に参加することを強制します」  全体にざわめきが広がった。  お互いの確執がある今絶対に起きないと思っていた交流を行うのだ。  誰もがそんなことはありえないと思っている。 「ま、マリアさま、この者たちと仲良く茶を飲めとおっしゃるのですか?」  メルオープは歯を食いしばりながら、ビルネンクルベを横目で見た。  ビルネンクルベも同じ反応だ。 「アクィエルさまがそのような提案を承諾したのですか!? 」  お互いに信じられないことが起きて動揺している。  確かにわたしもアクィエルが了承してくれるとは思わなかったが、この機会を逃してはもう二度とゴーステフラートの心は帰ってこない。 「二度は言いません。これは命令です。それに事実もなく相手を批判するのなら、それは自身を愚か者と言っているのも同じ。もし全ての事実が分かってビルネンクルベが貴方達の言う通り、良からぬことを考え貶めたというのならわたくしはいくらでも手を貸しましょう。それとわたくしの剣を自称するのなら、わたくしが剣を振るう理由を持ってきなさい。都合の良い時ばかり使えるほどわたくしの名前は軽くはないです」 「……マリアさまのお手を煩わせて大変申し訳ございません」  メルオープの謝罪もありどうにかこの場は収まった。  一度学生を解散させてわたしはヴェルダンディとルキノをねぎらった。 「二人ともありがとう。どうにか最悪は逃れました」 「いえ、マリアさまが来てくれたからこそです」 「そうですね、でもお互いにけしかけるなんて、嫌な臭いがしますね」  ヴェルダンディの言う通りだ。  だがこの二つの領土の仲を悪くさせて得をする領土なんてあるのだろうか。 「今は考えても仕方ありません。それよりもお茶会の準備をすぐにしましょう。ヴェルダンディとルキノも情報を集めておいてください」  二人は元気よく返事して、この件について裏から調べることになった。  わたしも招待状の準備や根回しを始めたのだった。
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