第三章 芸術祭といえば秋、なら実りと収穫でしょ!

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 レティアが完全に去ってからもわたしの放心は続く。 「姫さま、もう少しだけ我慢くださいね」 「うん……」  ステラに支えられながら部屋へと戻って行く。  わたしも醜態を晒すことだけは自制心で止めることができた。  やっとのことで部屋に戻り、ステラだけが部屋に残っている。  そこでたまらず気持ちの栓が外れた。  ステラはわたしを抱きしめる。 「いやですいやです! わたしはウィリアノスさまを応援したいです! こんなに頑張ったのだからこれぐらい、良いではありませんか!」  ステラの胸の中で思いの丈をぶつけた。  なぜ想い人のかっこいい姿を観にいけないのか。  こんな姿を他人に見せるわけにはいかないが、それでも吐き出さずにはいられない。 「魔法祭だって頑張ったし、お金だってどうにかしました。次は領土問題に手を伸ばしたんです。一個くらいワガママ言ってもいいじゃないですか!」 「ええ、姫さまは頑張っておいでです」 「なら行ってもいいですか?」  わたしは上目遣いでステラを見たが首を横に振るだけだった。  その顔は悲痛な顔をしており、わたしの要望に応えたいと思っている顔だ。  もうすぐ居なくなるステラにこれ以上迷惑をかけてはいけない。 「大変申し訳ございません。……落ち着きましたので、少しだけ休ませてください」 「かしこまりました。今日は特に気を張ってたと思いますので、夕食の時間までごゆりと。何かあればベルを鳴らしてください」  ステラはわたしの頭を撫でてから部屋を出た。  一度体を落ち着かせるためベッドで横になる。 「ウィリアノスさま……」  か細い声が溢れた。  我儘だとはわかってはいるが、それでも行きたいのだ。  でもサラスが許してくれるわけがない。  気持ちがぐしゃぐしゃになっており、何か良い言い訳を考えるが何も思いつけない。 「姫さま、お休みのところ申し訳ございません。下僕が至急報告したいとのことで入室の御許可をいただけますでしょうか」 「下僕?」  一体何の用だろうか、と考えると同時に閃いた。  ウィリアノスさまのところへ行く方法を。 「ええ、構いません」 「失礼します」  下僕が部屋へと入ってきた。  資料を持ってきているので、経営関係だろう。 「よく来ました。一体どうしました?」 「はい、どうしても大きなお金が動きますのでマリアさまのサインを貰いにきました」  わたしは資料に目を通して、決裁書にサインをした。 「ありがとうございます。では僕はここでーー」 「ちょっと待ちなさい」  部屋から出ようとした下僕を後ろから肩に手を置いて引き止めた。  いいところで来たこの子を帰すわけにはいかない。 「マリアさま?」  下僕がこちらを振り返る前に言葉を続けた。 「ねえ、下僕。わたくし最近頑張っていますよね?」 「え、ええ。とても頑張られていると思います」 「ですよね? なら少しくらいハメを外してもいいと思わないですか?」 「えっと、それはつまり?」 「わたくしを外に連れ出しなさい!」  こんなタイミング良く下僕が来てくれるとは思ってもみなかった。  この子がいればこの部屋から抜け出すなんて簡単なことだ。 「ええ!? さすがにやばーー」 「しーー!」  騒ごうとする下僕の口を塞いだ。  ドキドキと時間が経ち、ステラたちから何も言われないので聴かれていないと判断した。 「声が大きいです!」 「だって、僕が外に出したと知られれば、どんな罰があるか……」  どうやら見つかった後のことを気にしているようだ。  下僕は側近の中で地位が一番低いので、罰金程度では済まないかもしれない。  わたしは少しばかり勇気付けることにした。 「何を言っていますの。家を取り壊されるくらいですよ」 「それを問題だと言っているんです!」  下僕から注意された。  どうやらあまり追い風にはなっていないようだ。 「ねえ、下僕」  わたしは下僕の頬を触り、ゆっくり顎へともっていく。  シスターズにリピーターが多いほど人気な動作だ。  少しばかり下僕の顔が赤くなっているので、男でも効くようだ。 「貴方が頼りなの。ねえ、いいでしょ?」 「それならセルランに頼めば……」 「セルランが許すわけないじゃない。下僕はあれを持っていたじゃない。また貸してくださいませ」  下僕の道具があればいくらでも抜け出せる。  最後の一押しだ。 「貴方だけが頼りなの」 「……分かりました。これをお使いくださいませ」  下僕は小さな筒をわたしに渡した。  タイミング良く持っていたようで、わたしの幸運に感謝するしかない。  わたしは下僕に思わず抱きついて感謝を告げた。 「ありがとう! やっぱり貴方は最高の側近よ!」 「ま、マリアさま! いけないです、こんなところーー」  わたしはすぐに抱擁を解いて、自分の髪一本をテーブルの上にあるナイフで切った。そして小さい筒の蓋を外して、自分の髪を一本ナイフで切った。 「ふふん、これで明日には出来ますわね。明日の朝、騎獣で窓の外まで来てくださいね。……どうかしたか?」 「……いいえ。ごほん、了解しました。ですがヴェルダンディも呼びますからね。彼なら黙っててくれますし、万が一があっても守りきれますので」 「そうね、ヴェルダンディもいれば最悪大丈夫でしょう。早速仮病の準備しなくちゃ」  わたしは早速ベッドに入り、横になった。 「下僕、セルランたちに調子が悪くなったから、夕食は自室で食べるとお伝えください」 「かしこまりました。ですが、絶対ぼくたちから離れないでくださいね」 「うん!」  下僕は仕方のないような顔をして部屋を出ようとした。 「下僕!」  下僕はわたしの声で振り返った。 「ありがとうね!」  下僕は優しい笑顔を見せて部屋から出て行った。
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