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ウィリアノスさまは騎獣に乗って、空高く上った。
そして大きく手を振って、拍手に応えていた。
すると一人の騎士が空まで上った。
黒い鎧を身につけているのは、ディアーナの恋人であるエルトだった。
「お久しぶりです、ウィリアノスさま」
「騎士祭ではこちらが勝手に観ていたがな、エルト。学生の時よりもさらに腕を上げたと見える。だが負けるつもりは毛頭ない。勝負だ、エルト!」
ウィリアノスさまは楽しそうにエルトに勝負を吹っかけた。
エルトも楽しそうであり、大きく頷いた。
「もちろんです。では試合で合間見えましょう」
エルトはまた降りていって、自軍へと戻っていた。
「エルトさんとウィリアノスさまか。今日はやっぱりエルトさんの勝ちかな」
「いいえ、ウィリアノスさまなら何か秘策があるはずです。わたくしはウィリアノスさまを信じています」
たとえ学生であるウィリアノスさまとはいえ、何も策がなく挑むわけがないだろう。
試合開始前に選手全員が神への奉納を済ませた。
そして各自戦闘準備を始めて、審判の合図を待った。
「王領vsスヴァルトアルフ領の戦いを始める。マンネルハイムはじめえええ!」
両チームが一斉に動き始めた。
エルトを含めた五人チームが誰もよりも早く進んでいく。
地面を駆けているのにも関わらず空を飛ぶ王領とそこまで速さが変わらない。
そのエルトを待ち受けているのは同じく五人チームを組んだウィリアノスさまだ。
どちらも先制の攻撃をするため全力で進んでいたので、最初の攻防となった。
「所詮は土竜だな。動きが遅い!」
ウィリアノスはニヤリと笑ってエルトへ剣を振り抜いた。
だがエルトは難なくその剣を受け流して、そのままウィリアノスさまを無視した。
他の騎士たちも同じく受け流して、まるでウィリアノスさまを無視しているかのように突進を続けた。
「まさか!」
ウィリアノスさまは攻撃を受け流されたことよりも自分を無視したことの意味に気付いた。
すぐさま追撃をしようと反転したが、土竜の動きは加速した。
体型を細くしていき、貧相な体に変わっているが、それはつまり無駄な魔力を減らしたということだ。
「急げ! このまま行かせるな!」
ウィリアノスさまも魔力を最小限にして速度を上げようとしたが、スヴァルトアルフの騎士たちが行く手を阻んだ。
ウィリアノスさまたちを完全に無力化した。
「各自、最初の作戦は成功した! 狙うは指揮官だ! 」
「了解!」
だがその先にはまだまだ王領の騎士たちがいる。
流石に五人では全員を倒すことなど不可能なはずだ。
「使うぞ」
エルトたち五人は腕に付けているガントレットに魔法を載せていた。
「あれって! アリアのブレスレット!?」
アリアが作ったブレスレットがもうすでにエルトたちに渡っていた。
下僕が使ったことで、アリアが作ったことを知ったのだろう。
「間違いないですね。アリアさまかクロート、もしくは自分でないとあれは製造工程が分からないはずです」
下僕もあれはアリアが作ったブレスレットだと言っている。
そしてエルトたちは魔力を体に付与した。
二人分の身体強化が合わされれば、それは常人を超えた何かだろう。
セルランは三人分の強化までは耐えた。
エルトたちは二人分の強化が限界であるようだ。
「時間を掛ければこちらの負けだ! これを逃せば負けだと思え!」
一斉に襲いかかるが、強化を二重にしている騎士たちにバッタバッタとなぎ倒されていく。
スピードもあまりにも早く、人形を攻めていた者たちでは遠すぎて全く追いつけない。
味方の援護もあり、誰からも邪魔されることなく、エルトは指揮官の元へ辿り着いた。
「速すぎる……。だがここで負けるわけにはいかない!」
指揮官はトライードを持ち出して、最後の抵抗をする。
しかしエルトの剣は残像を残しながら、トライードを弾き飛ばした。
反応すら許さず、首にそっとトライードを当てた。
「審判、試合終了のコールをしていただけますかな?」
「しょ、勝者、スヴァルトアルフ領!」
観客から一斉に拍手が起こった。
おそらくはこれまでで最速の試合だっただろう。
お互いの騎士の力量に差はなかった。
一つの魔道具で戦力に差が出来てしまっただけだ。
「くそ!」
ウィリアノスさまは悪態を吐いていた。
いいようにあしらわれて悔しそうだ。
エルトはウィリアノスさまに近づいた。
「あの時俺のところまで挨拶しに来たのは、俺と対決すると見せかけるためだったんだな」
エルトは静かに頷いた。
「はい。ウィリアノスさまが迎撃に出てくるのは分かっていました。それなら前におびき出せば、あとは後ろの仲間に任せることができます」
「っち、アリアの道具か。まさかお前たちがもうすでに手に入れているとはな」
「アリアさまは大変素晴らしい物を作ってくださいました。マリアさまとアリアさまが仲良く手を取り合ってくれたからこそです」
エルトはガントレットを撫でて、その有り難みを深く感じているようだ。
使い手が良ければその分道具も効力を増す。
「ふん、今回は負けたが次回はそうはならない。アリアからこちらも貰っておこう」
「ウィリアノスさまでしたら、マリアさまからいただけるのでは?」
「作っているのはアリアなのだから、アリアから貰った方が確実だろう? どうせマリアは魔力を込めただけだろう」
ドキッと心臓が鳴った。
確かにそのとおりであるが、少しばかり頼られないのが寂しくもあった。
「行きましょうか……」
「……マリアさま」
下僕が不安そうに見るので空元気で笑顔を向けた。
わたしは二人を連れてコロシアムから出たのだった。
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