第三章 芸術祭といえば秋、なら実りと収穫でしょ!

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 セルランを見送った後、お父さまの話を聞くことになった。 「すまないな。彼の力が今は頼りなんだ」 「いいえ、わたくしが役に立てない以上はセルランにお願いするしかありませんもの」 「うむ、魔物についてはわたしに任せて、二人には領主候補生たちと連携を取って騒ぎを起こさないようにしてくれ」 「畏まりました。直ちにやらせていただきます」  お父さまとの通信も終わり、部屋には静寂が訪れた。  息をゆっくり吐いて、次に何をするべきかを考える。 「レティアはジョセフィーヌ領の学生を食堂へ集めておいてください。今は各領土で危険な状態だから帰省するのは禁じてください。それと上級生たちには下級生たちの面倒をお願いしてください」 「分かりました!」  レティアはすぐに自分の側近たちに指示を飛ばした。  わたしも次の指示を飛ばした。 「ディアーナ、レイナ、ラケシスは領主候補生たちを全員を会議室まで呼んでください。わたくしから彼らに直接指示を与えます。呼び出しにはわたくしの名前を使って強制させなさい。どんなことよりも最優先であることを忘れないように」  三人とも走り出した。 「一度わたくしは自室に戻ります。リムミントとアスカはこの通信の魔道具でもっと詳しい情報を集めておいてください」  二人も了承して、水晶に手をやっていた。  わたしは一度部屋まで戻る。  こういう緊急時の対処について一度考える必要がある。 「ステラ、定刻になったら呼んでください。それまで集中したいので」 「かしこまりました。病み上がりなのですからあまり無茶をしませんように」  ステラの忠告も聞きながら、一度状況を書き出すため、引き出しの中にあるペンを取り出そうとした。  そこで手紙のことを思い出した。 「そういえば、手紙が光っていましたわね」  わたしは手紙を手にとって、読んでみた。  三領土で魔物が大発生している。  原因は伝承を復活させたせいだ。  これは試練である。  変化を起こした者には、それ相応の変化の代償を受け止めなければならない。  もし自分に当主という自覚があるのなら決断せよ。  犠牲を出したくないのなら、犠牲を出さない方法を考えるしかない。  貴女はもうすでに知っているはずだ。  願わくば最後の決断をわたしにさせないでくれ。 「なぜわたくしが今知った情報をこの手紙の主は分かっているの? これは学生ではないの?」  この手紙は一体誰が送っているのか。  最後の決断とは一体何なのだ。  わたしは未来を本当に変えているのか? 「わたしがもうすでに知っている? 」  この手紙の言いたいことを推測しようとするが全くわからない。  一旦この手紙を置いて、まずはすべきことを洗い出した。  そして指示すべき内容も固まっていく。 「姫さま、お時間です。そろそろ会議室へむかいましょう」  時間がないため没頭していた。  ステラの声で一度思考を中断して、会議室へ向かった。  もうすでに各領主候補生が集まっていた。 「みなさん、よく来てくださいました」 「一体何事ですか? ここまで緊急で呼び出すなんて」  カオディがおどおどしながら聞いてくる。  わたしの名前で強制召喚したので、何か悪いことをしたと思ったのかもしれない。  親譲りのビビリであるようだ。  だがそんなことは今は無視だ。 「先ほど、シルヴィ・ジョセフィーヌから通信がきました。わたくしが伝承を復活させた影響か、各領土で大量の魔物が発生したそうです。それに加えて、群れを率いるボスがいるみたいで、シルヴィの騎士団長であるグレイルが一体の魔物と戦って相討ちとなり、瀕死の重傷になったようです」  全員が目を見開いて驚愕した。  グレイルの強さは、ジョセフィーヌの血を継いでいるので上級貴族の魔力よりもさらに上だ。  もちろん本人の才能もあり、セルランがいなければジョセフィーヌ最強の騎士だ。  そのグレイルが瀕死になるほどの敵がまだ二体も残っている。 「パラストカーティでは他の領土よりも騎士の魔力が低い。ただちに帰らねば」 「ダメです。メルオープ座りなさい」  メルオープは席から立ち上がろうとしたが、わたしはきつい目を向けてその行動を止めた。 「何故ですか! 」  メルオープは納得いかないようで、わたしを睨み返した。  その目を見たヴェルダンディとルキノがトライードをメルオープの首にやった。 「メルオープさまとはマンネルハイムで仲良くなりましたが、マリアさまにその目を向けることだけは許さない」 「わたくしも同感です。たとえ領主候補生といえども、マリアさまのお言葉に背く権利はありません」  メルオープはゴクリと息をのんでいた。  初めてこの二人から殺気を受けたのだろう。  わたしの側近は伊達や酔狂ではなれない。  護衛騎士には実力と品格、そしてわたしへの忠誠が求められる。 「メルオープ、貴方の気持ちは分かりますがーー」 「マリアちゃーん、入ってもいいかしら?」  部屋の外から聞きたくもない声が聞こえてきた。 「ヨハネ……、ステラ、入れなさい」  扉を開けて、ヨハネが入ってきた。
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