第三章 芸術祭といえば秋、なら実りと収穫でしょ!

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 早朝になったので、わたしも鎧を着て中庭へ向かった。  もうすでに遠征に参加する騎士たちが列を作って待っていた。  全員がフルプレートなのでかなり重々しいが、それだけ頼り甲斐があるということだ。  しかし中にはあまり強気でいられない者もいるようだ。 「グレイルさまが苦戦するような相手に俺たちでいけるのか?」 「それにセルランさまは別の場所にいるから頼りにできないそうだ」  口々に不安を声に出していた。  グレイルが離脱するような事態は誰もが信じらないことだろう。  このままでは不安が伝染してしまう。 「何を言っているんだ!」  メルオープが大きな声で、不安を口にしている生徒に一喝した。 「セルランさまが一番大変な場所を受け持ってくれるのなら、それこそいいではないか。我々は自分の領土を守れてかつ少し弱い魔物を倒せばいいだけなんだ。あちらにも戦ってくれている騎士が多くいる。恐れるな」 「は、はい」  メルオープの言葉が効いたのかなんと不安を口にする声がなくなった。  さすが領主候補生、手綱の握り方はわかっているようだ。  そしてメルオープがわたしのところまできた。 「マリアさま、先ほどアビに連絡をしたところ、着いてからの宿泊地は全員分用意してくれるそうです」 「そう、それは良かった」  休む場所がないと、流石に一日で戦いに行くのは大変すぎる。  わたしはホッと胸を撫で下ろした。 「マリアさま、そろそろ時間です。騎士たちに一人二本ずつ最上級の回復薬を与えました。全員準備完了です」  レイナが報告をくれた。  わたしは頷いて、気持ちを整える。 「お姉さま、無理はしないでくださいませ」  レティアが不安な顔を覗かせていた。  昨日、次期当主の継承権が移るかもしれないと報告したら顔を青くして倒れかけた。  それは当主になることよりも、わたしを心配してのことだった 「そんな顔をしないでください。わたくしは大丈夫です。魔物に恐れをいだくほどジョセフィーヌの女は弱くないのですよ」  レティアの頬に手をやってこちらを見させる。  笑顔を向けて、彼女の不安を少しでも無くす。 「ええ、お姉さまならどうにかしてくれますものね」 「そうよ、わたくしも少しは成長したのですから」  レティアと笑いあって健闘を祈ってもらった。  わたしは出立前に全員の士気を上げるために、自分のマリアーマーに乗って空へと上った。  まだ騎獣を作る練習はしてないのでマリアーマーを使う。 「わたくしの騎士たちよ。知っての通り、大事な領土に大量の魔物が発生した。強力な魔物が出現しているので恐い気持ちもあるでしょう。ですが恐れることはありません。騎士としての訓練を今日までしっかり積んできたことをわたくしは知っています。他領が助けに来ないからと悲観しないでください。マンネルハイムで優勝したのは貴方達です。この学校の中でみんなより強い騎士はいません」  全員が真剣に耳を傾けている。  わたしはトライードに魔力を注ぎ込んで、空まで届くほどの大剣を作り出した。 「戦士達よ、心を沸き立たせろ! 血流を流せ! 水の神オーツェガットは万物の母である水を支配した。ならば我々も己の血を操り力へと変えろ! 」  全員がトライードに刃を出現させて、空へと掲げた。 「故郷を脅かす敵を討ち滅ぼせ! このマリア・ジョセフィーヌに勝利を届けなさい! 」 「我らが姫に勝利を!」  トライードの刃を天へと放出した。  他の者も全員が魔力を空へと送り、無事水の神に届いたことだろう。  そして謎の一体感を感じながら、微細な光が包み込んだ。  どこか暖かい光の力を感じながら、力が漲るような気がしてきた。  全員が騎獣を出して、前にわたしたちがしたように二人一組で飛んで行った。  さて一つ困ったことがあった。 「このマリアーマーをどうやって持っていこうかしら」  わたしのマリアーマーだけは他の鎧とは違い、鎧に乗っているようなものだ。  そのため、重さも他より数倍重い。 「それでしたら、わたしどもが持っていきます」  カオディが魔力の高い文官たちで騎獣を連結させて持っていくと言った。  これでマリアーマーも問題なく持っていける。  わたしはホッと息を吐いて、ステラの騎獣に乗ろうとした。 「お待ちください」  声を掛けられて振り向くとシュトラレーセの領主候補生であるラナとアリアがやってきた。  何故かアリアは黒色の鎧を身に付けていた。 「ラナ? それにアリアのその格好は?」 「スヴァルトアルフが今回の戦いに参加できないことをお詫びに来ました」  かなり責任感がある女性であるのはわかるが、援軍として行くかどうかの采配は管理するスヴァルトアルフにある。  シュトラレーセの独断でできないのに責めてもしょうがない。 「貴女は悪くはありませんよ。悪いのは全てガイアノスですから」  ヨハネの情報が正しければ、奇妙な圧力を掛けていると言っていた。  だがラナは首を振った。 「いいえ、これはシュトラレーセも関係がありますので。理由は言えないですが、どうか一つだけお詫びとしてアリアをお連れください。この子なら魔力や知識でサポートができます」 「わたしをどうかお連れください」  一体どういうことなのか。  どうしてアリアが参加するのか、わたしにはよくわからなかった。 「大変申し訳ないのですが、危険な敵がいる中、大事な妹であるアリアを連れていくつもりはありません」 「今はこの王国院にいる方が危ないのです。マリアさまの庇護下で無くなることの方が」  アリアは誰かに狙われているのか?  理由を知りたいがラナはこれ以上喋る気はないようだ。  わたしが聞いても答えられないということは、スヴァルトアルフから厳命されているのかもしれない。 「分かりました。アリアはわたくしのサポートとして付いてきなさい。騎獣はもう出せますか?」 「はい! パラストカーティまでなら一人で魔力も持たせることも出来るはずです」  アリアの魔力はかなり高い。  それも領主候補生でも群を抜いて。  一度魔力測定結果を聞いてみたいと考えたが、ステラから前に行った者たちと距離が離れすぎると急かされる。 「では行きますよ!」  わたしたちはパラストカーティへ向けて出発した。
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