第三章 芸術祭といえば秋、なら実りと収穫でしょ!

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 わたくしの名前はルキノ。  マリアさまをお守りする護衛騎士の一人です。  マリアさまの護衛騎士としては一番実力が低いですが、それでもマリアさまを守る気持ちなら負けるつもりはありません。  現在、エンペラーという最強の竜と戦っている。  昔はこういった伝説の魔物と戦うことを夢見て、無茶な戦いをしたりして己を高めようとしたが、結果的に実力を過信して取り返しが付かなくなった。  その後はマリアさまに拾われて、わたくしは家から出される心配も無くなったのだ。  恩には恩で報いるべきだと思っている。  ヴェルダンディが勇敢にもエンペラーにダメージを与えたが、反撃を食らって離脱となった。  今はわたくしがこの場を指揮する指揮官だ。 「全員、無茶をしないように! チャンスが来るまでは防御を考えてください!」  ヴェルダンディが離脱した後もどうにか戦線を維持しているがあまり長く保たないかもしれない。  ヴェルダンディがいない今ではダメージをほとんど与えられないせいだ。  シルヴィの騎士団長が倒せない魔物を、亜魔導アーマーがあるとはいえ、学生がどうにかしようとするのが間違っているのかもしれない。  だがこの魔物がやってくることを予想できるわけがない。  今までどこに雲隠れしていたのかも分かっていなかったのだ。  まだ傷が癒えてないはずなのにこの強さは最強を冠するに相応しい。  わたくしが一撃を与えてからまた下がった。  この一撃離脱を繰り返すしか手がないのだ。  ちょうど下がったタイミングで後ろから声が聞こえてきた。 「ルキノさま、マリアさまからの指示をお伝えに来ました」  学生の騎士の一人がやってきた。  わたくしは戦線を維持するよう命令して、さらに後ろに下がって、マリアさまの指示を聞く。 「これより、アリアさまが最大火力の魔法を放つそうです。合図が来るまで耐えてくださいと仰せです」 「それはアリアさまに危険が及びます。魔物はわたくしたちの魔法に敏感です。どうかその作戦を止めるようお伝えください」  騎士の素養がないアリアさまがあまりにも危険すぎる。  守る人員が足りないので、たとえ主人の命令とはいえ簡単には承諾できない。 「それは考えがあるようです。ステラさまも了承していました」 「そうですか。ステラさまもそう仰るのならわたくしから言うことはありません」  わたくしよりも知識も実力も上であるステラさまが了承するのなら、わたくしが反対する意味もない。 「それと、もともと計画されていた作戦にマリアさまが参加しないといけないため一時この場を離れるそうです」 「分かりました。マリアさまが集中できるようにわたくしも全力を尽くすと伝えてください」  わたくしの任務はこのエンペラーの足止めだ。  マリアさま並みの魔力を持つアリアさましかこの魔物にダメージは与えられないだろう。  だがやはり疑問が残る。  どうして領主候補生とはいえ、五大貴族の中でも断トツで魔力量があるマリアさまに並ぶ魔力を持つのか。  クロートもそうだ。  もしかすると、魔力を増強する手段が何かあるのかもしれない。  下僕もどんどん魔力が上がっていると聞くので今度コソッと聞いてみようかと思う。  わたくしは騎士たちに向けて命令した。 「これよりアリアさまが魔法を唱えるそうだ。我々はこの最大の勝機を逃すわけにはいかない。アリアさまへ注意が向かないようになるべくこちらに集中させるのだ!」 「「っは!」」  身体強化を極限まで高める。  身体強化の魔法はこの鎧のおかげで今まで以上に掛けられるが、この限界値まで上げることはわたくしの体ではできない。  やれば限界を迎えてしまい、筋肉に重度の傷を負わせることになるだろう。  だがその一歩手前までなら、少しの間は動ける。  今この中でこの魔物の気を引けるのはわたくしだけだ。  筋肉が軋み始めた。  何でもできる高揚感が押し寄せてくる。  トライードに魔力を通して限界の強度まで上げた。 「いけえええ!」  わたくしは騎獣を加速させた。  エンペラーもわたくしの魔力の増強に気付いたのか、視線を合わせてきた。  あちらもわたくしに突っ込んできて大きな口を開けて噛み付いてきた。  どうにか寸前で躱して、肩にトライードを斬りつけた。 「ギャアアアアアアアア!」  身体強化も合わさったことで初めて大きな血しぶきを上げてくれた。  だがそれでも表面を斬ったにすぎない。  エンペラーが口に炎を溜めて吐き出してきた。  何度も連弾で放ってくる。  騎獣を操作して辛くも避け切ることができた。  しかし、わたくしを追うように魔法陣が現れた。 「まずっーー」  急いで騎獣を消して、自由落下を試みた。  目の前をさっき避けたブレスが掠めていった。  魔法陣でブレスを移動させたのだ。  わたくしの落下する方向に魔法陣が浮かび上がった。  急いで騎獣を召喚して、飛行することでまたもや避けることができた。  知性ある魔物は厄介である。  何度も同じように魔法陣が現れるので、回避に集中することでどうにか振り切った。 「ルキノさま! これより魔法を発動します!」  遠くから声が聞こえてきた。  それと同時にエンペラーもその方向へ視線をずらした。  どうやらもう魔法を放つようだ。 「全員退避せよ! アリアさまの魔力の射程範囲から離れるように!」  わたくしの任務はこれで終わりだ。  この伝説の魔物に対して生き残った誇らしさと、一撃しか満足な一撃が与えられなかった悔しさが何とも言えない気持ちへとさせる。  だがこれがわたくしの限界なのだ。  後の世では何も記録に残らないだろうが、それでもわたくしは出来ることをやり切ったので、自分を褒めていいだろう。  でもいつかわたくしもーー。
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