第三章 芸術祭といえば秋、なら実りと収穫でしょ!

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閑話ステラの恋愛話12  姫さまが犯罪組織の幹部として潜伏をしてからどうも様子が変わった。  前は年相応の幼さを見せていたのに、それが隠れて残酷な一面が出るようになっていた。  今日はわたくしも姫さまに命じられて、悪さをする平民を見せしめとして殺してきた。  これは犯罪組織の中でも特に凶悪な犯罪をしており、組織の長の命令を聞かない輩を粛清しているのだ。  特に平民の命など気にしたことはないが、やはり同じ人間を殺すのは好きではない。  わたくしは仕事を終えて、姫さまに報告のため部屋へと向かった。  そこでリムミントと鉢合わせた。  この作戦は彼女が立てて、さらに姫さまのお考えを加えたものだ。  だが彼女もあまり良い気分ではないみたいだ。 「お疲れ様です、顔色が悪いですよ。しっかり寝ていますか?」  わたくしがそう言うと、苦笑していた。  リムミントとアスカが任務に失敗して、姫さまの失敗を喜ぶ下衆な連中から心無い言葉を浴びせられているのを知っている。  だが彼女は気丈に振る舞った。 「ええ、全く問題ありません。ステラこそ大丈夫ですか? あまり気持ちの良い任務でもなかったでしょう?」 「まあね。でも仕方ないわ。この領土に害をなそうとしている連中ですもの。あとで一緒に食事でもどうですか? 今晩、空いていればですが」 「そうですね。久々にゆっくりお話しをしたいですね。もしよければアスカも連れて行っていいですか?」  アスカも最近はかなり忙しくしている。  あんなに明るかった彼女が無表情で仕事をする姿は少しばかり見ていられない。  わたくしは快く了承した。  姫さまの部屋に行くとセルランが護衛として付いていた。 「戻ったか。どうだった?」 「簡単な任務でしたよ。魔法が使えない平民でしたからね」 「油断するな。前はその平民に出し抜かれたのだ。っと、気を抜いている輩には言うつもりだが、ステラにその心配はいらなそうだな。だが少し休んだほうがいい。疲れが隠せていない」 「そうしますね」  どうやらわたくしもあまり大丈夫そうに見えないようだ。  この報告が終われば今日の仕事は終わりだ。  護衛もほかの騎士が変わってくれるので、王国院にいる時よりも自由な時間が多い。  わたくしはノックをした。 「任務より帰還しました、ステラでございます。入室の許可を頂けますでしょうか」 「入っていいわよ」  無機質な声が届いた。  いつものように可愛らしい声ではなく、どこか恐ろしさを感じる低い声だ。  わたくしは部屋のドアを開けた。  椅子に座り、大量の資料に囲まれながら仕事をしている姫さまはもう学生とは思えない風格があった。  わたくしの入室で一度作業を止めて、その目をこちらに向けた。 「おかえりステラ。どうでしたか? しっかり殺してきましたか?」  昔のような無邪気な顔を見せながら、昔なら絶対に言わない言葉を使った。  一体どうしてこの数日でここまで変われるのか。  いや、それよりも前からその兆候があった。  裏切りや大事な側近の大怪我、重鎮たちからの圧力、そして醜い平民たち。 「姫さま、淑女が使うにはあまりよろしくないお言葉です」 「ふふ、そうですね」  姫さまの微笑むがそれは何かを演じているように感じた。  まるでヨハネさまを思い出される。  もしかするとヨハネさまも似た経験があるのかもしれない。 「首尾はどうです? 一応、リムミントと一緒に相手の行動を読んで考えましたが、何か想定外なことは起きませんでした?」 「万事抜かりなく。しかし今回も手を貸していた貴族の痕跡を見つけることができましたでした」 「そう……それは残念」  姫さまシュンと落ち込んだ。  だがすぐに顔をあげた。 「でもこれでだいぶこの組織も掌握できましたね。これで財政的にもこちらに入るお金が増えます。あとは麻薬と密造ね。これさえ、完全にーー」 「姫さま、頑張るのはよろしいですが、無理をして倒れては元の木阿弥ですよ。化粧で隠しても目の下の隈があるのが分かります」 「でもまだこんなにーー」 「姫さま!」  それでも書類に手を伸ばそうしたので叱咤した。  これ以上この子に無理させてはいけない。  セルランは戦闘面では有能だが、こういった体調の変化への対応が上手くない。  これは年長者であるわたくしの役目だ。 「分かりました。レイナとラケシスを呼んでください。お風呂に入ったら今日はもう休みます」 「よろしい。では報告書に関しては明日出しますね。ゆっくりお休みください」  わたくしはそれで部屋から退出した。  そしてリムミントとアスカを連れて、貴族御用達のレストランへと向かった。  平民のお店だが味も良く、客層も良いので愛用しているお店だ。  席について、ゆっくり談話を始めた。 「アスカ、最近困ったことはありませんか?」  わたくしは早速アスカの体調を確認した。  だがアスカに疲れている自覚がないのか特に思い当たるところがないようだ  。 「特にありませんが、平民たちには本当に困ったものです。わたくし貴族がいなければ生活が成り立たなくなるというのに。今まで自分のしたいことだけをしていれば良かったですが、平民の面倒を見てからその愚かさに頭がきますね」  アスカの目が黒く映った気がした。  姫さま同様、貴族とは違う平民の黒さを知って冷徹な感情が生まれたようだ。  リムミントはアスカに苦言を呈した。 「アスカ、やはり少し休んだほうがいいです」 「何を言っていますか!マリアさまのおかげで名誉を挽回する機会をいただいたのですから頑張らないと!」  アスカはやはりあの時の失敗を気にしているようだ。  あれ以来、趣味でやっていた魔法工学もほとんどやっていないらしい。  完全に余裕が無くなっている。  ここはわたくしが注意しないと。 「アスカ、姫さまにも言いましたが無理して倒れては意味がありません。休むことも仕事の内ですよ」 「分かってはいますが……」  アスカもどうやら分かってはいるが、何かしていないと落ち着かないようだ。  少しばかり空気も悪くなったことでリムミントが思い出したかのように会話を続けた。 「そういえばステラのおかげで、今日は姫さまが休んでくれるとレイナが喜んでいましたよ」  その話にアスカも乗ってきた。 「ラケシスも踊りそうなほど喜んでいましたね」  ラケシスは姫さま関連だと本当に楽しそうだ。  ディアーナは王国院でお留守番のためまとめ役がいない。  彼女がいればもう少し姫さまの心に寄り添ってケアをしてくれるのに。  姫さまと同い年のレイナとラケシスではなかなか注意するのも難しいのだろう。  お互いの情報の交換をして、今日の食事会は終わった。  実家はこのボアルネにあるため、城に個室が与えれていない。  わたくしは家へと帰った。 「おかえりなさいませステラさま」  家に帰り着くとセーラがわたくしを出迎えてくれた。  なんだかこの子の顔を見ると一気に安らぐ。 「ただいま。食事は取ったから後は入浴だけでいいです」 「かしこまりました。あと、スフレさまからの手紙にお返事を書かれましたか? 前の手紙が来てからかなり日数が経っているので失礼に当たりますよ」  かなりといっても、転送の魔道具で送るので一瞬で着くようになったからであり、まだ三日ほどしか経っていない。  そこでわたくしは一つ思いついたことがあった。  彼なら何かいい方法を知っているかもしれない。  入浴中に書く内容を頭で思い浮かべるのだった。
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