第三章 芸術祭といえば秋、なら実りと収穫でしょ!

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閑話ステラの恋愛話19  その後、姫さまが来られて踊りを舞った。  幻想的な光景を初めて見る者たちは魅入っていた。  わたくしも初めて見たときは同じような感じだったので気持ちはわかる。  遺跡の外は領主の城が近いこともあり魔力も豊富なので変化がないように見えた。  その後に痩せ細っていた土地から緑が生まれたと報告があるので、無事成功したといえる。 「ステラ、セルラン。急で申し訳ないのですが、明日には王国院へ戻ろうと思いますの。護衛は他の者に代わってもらいますので、帰りの支度をお願いします」  姫さまの仕事も一段落したようで、後はシルヴィに引き継いでもらう。  急いでいる理由は騎士祭がもうすぐ開催されるのでそれに間に合わせたいようだ。  準備と言っても、セーラに全て任せているのでわたくしがすることはない。 「ステラさま!」  城の中を歩いているとスフレさまと出会った。  前の一件以来、急速に仲が深まった。  そのためわたくしも少しばかり気持ちが浮つく。 「御機嫌よう、スフレさま。今日もホーキンス先生たちと伝承の検証ですか?」 「そうだね。今までホーキンス先生をやる気のない人だと思っていたが、伝承に関する必要知識は尊敬に値する。魔法陣や古語についてかなり勉強になったくらいだ」 「ふふっ、ホーキンス先生はあの変態なところがなければ優秀ですからね」  ホーキンスは授業を無断で放棄するので、学生や先生たちからあまりよく思われない。  おそらくスフレさまの代からそうなのだろう。  でもクビにされないことからその能力だけは認められているのだろう。 「だが一つ残念なことが起きた」 「どのようなことですか?」  スフレさまが悲壮な顔をしたので、何かあったのか心配になる。  もしかすると伝承に関して良くない情報があったのか? 「実はこれからホーキンス先生が騎士祭に向けて研究発表の準備をしないといけないらしくて、わたしたち全員が一緒に王国院へと戻らなくてはいけないのだ。君としばらく逢えなくなるのが堪らなく辛い」 「それでしたら、わたくしも姫さまと一緒に王国院に戻りますのでまた逢えますね」  さっきまでの悲しい顔が嘘のように晴れた。 「それは何という僥倖! もしやマリアさまの幸運を我々にも分け与えてくださっているのかもしれない!」  わたくしの手を握って本当に嬉しそうにしてくれる。  ここまで喜んでくれるのでわたくしも幸せな気持ちになった。  そして王国院に戻ると姫さまの体調に異変が起きた。  身体を動かせられないほどの高熱に苛まれた。 「いきなりどうしたのでしょうか。特に感染症でもないみたいですし」 「分からん。もうしばらく様子を見てみるしかあるまい。もしあまりにも良くならないのなら、わたしが一晩でパラストカーティから伝説の湖の水を持ってこよう」  セルランと共に姫さまの熱が下がるのを待つしかない。  騎士祭をあれだけ楽しみにしていたのに、まさかこのような可哀想なことになるなんて。  サラスが姫さまの部屋から出てきた。 「サラスさま、姫さまの容態はいかがですか?」  わたくしが尋ねるとサラスさまは微笑まれた。 「どうにか熱は下がりましたが、何度も上がったり下がったりを繰り返しているので、しばらく休養が必要ですね。呂律は回っているので重たい病気ではない様子です」  その言葉を聞いてセルランと共にホッと胸を撫で下ろした。 「ただずっと騎士祭について気にされているので、本当にお楽しみのようですね」 「それは仕方がない。マリアさまの御身体の方が大事だ。気の毒だが騎士祭については諦めてもらうしかあるまい」  セルランの意見は尤もだが、しかしこれまで頑張られた姫さまに諦めろ、と言うのは少しばかり酷ではないだろうか。 「サラスさま、しばらく護衛の任を離れてもよろしいでしょうか?」 「何か急用でもあるのですか? 姫さまは特に動くことも出来ないので、少しの期間くらいなら構いませんよ」 「ありがとうございます。少しでも騎士祭で優勝の可能性が上がるように学生たちに指導をしてきます」 「なるほど。分かりました。ですがやるからには徹底的にお願いしますね」  サラスさまからも許可をもらったのでわたくしはすぐさま動いた。  ちょうど訓練場へと向かうヴェルダンディとルキノを見つけた。 「おっ、ステラか。マリアさまの容態は良くなっているか?」 「ええ、お話を出来るので危ない状態ではないようです。ただーー」  わたくしは姫さまの代わりにヴェルダンディのほっぺを引っ張った。 「いでぇ! なにひゅんだよ!」 「目上には敬語を使いなさい! 姫さまが居ないからって適当にするのは許しませんよ!」  こういう態度は姫さまの側近として相応しくない。  優秀なのだから、変なところで汚点に繋がることは避けてもらわないと。  まだまだわたくしが引っ張らないといけないようだ。 「わかりぃまひぃた! 」  しっかり分かってくれたようなので手を離した。 「わたくしたちが居ないからと言ってサボってはいないでしょうが、これまでの訓練の成果を見せてもらいますね」  もうすぐ騎士祭があるのに、少しばかり気持ちが弛んでいないだろうか。  姫さまが動かれないのならわたくしが勝てるために動かなければならない。  二人よりも先に訓練場へと入った。 「さて……、練習の雰囲気はーー」  入った瞬間に目を疑うことになった。
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