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ルキノは一度考え込みすぐにこちらを見た。
「そうね、香水がいいかも。ありがとう、参考になったわ」
「おう! そういえば今日訓練場に行かないか? メルオープも誘って連携とか試してみたいしな」
「ごめんなさい、今日はどうしても外せない用事があるの……」
どうやら先約があるようだ。
一刻も早くメルオープの好感度を上げないといけないが無理強いもできない。
「そっか、ならしょうがねえよな。また誘うよ」
「はい! では今度こそ失礼しますね」
ルキノとの話をメルオープに伝えた。
見るからに落ち込んだ姿は面白いが、あまりにも長い時間落ち込むので、いい加減、機嫌を直してもらおう。
「まあ落ち着けって」
「何を落ち着けばいいのだ。セルランさまと比べられたら勝てる者がいないじゃないか」
「そうかもしれないが、セルランが好きになるとは限らないぜ。あの朴念仁のことだから、どうせ上手くいくまい」
セルランはどういうわけか色恋沙汰を聞かない。
選り取り見取りだと、目が肥えすぎて普通の恋愛が歩めないのかもしれない。
「まあ、俺がマンネルハイムの訓練に付き合うからそれで許してくれ」
「そうだな……、訓練でもして気を紛らわそう」
どうにかメルオープも立ち直ってくれたので、俺と一緒に訓練場へ向かう。
そこでルキノが遠くに見えた。
「あれって、ルキノか。どこへ行くんだ?」
ちょうど研究所がある第二棟からルキノが出てきていた。
それと同時にセルランも一緒に歩いている。
「っい!?」
「どうしたヴェルダンディィィーー」
第二棟を見ようとするメルオープの首を無理矢理訓練場へと向けた。
せっかく立ち直ったのに、また落ち込まれては困る。
「なんでもない! さあ、時間もないし訓練するぞ! 俺が騎獣で連れて行ってやるよ!」
「えっ、いやおい待て! 男同士で相乗りなんてーー」
騎獣を出して、無理矢理メルオープを訓練場へと運んだ。
ちょっと運び方が雑だったので、下ろしてすぐ怒られた。
訓練が終わったあとゆっくり寮に戻りながら考えていた。
「このままじゃ、メルオープは何も出来ずに失恋か……。流石に可哀想だよね」
他人の恋路なんだから自分でどうにかするべきだろう。
だが手助けしたいと思うのは人情というものだろう。
こうなったら本気で場を取り持つか。
今日色々頭を悩ませて眠りにつくのだった。
次の日になり、メルオープが廊下の角で立ち尽くす姿が見えた。
「どうしたんだ?」
メルオープに声を掛けても返事はない。
一体何が見えるのかと思ってその視線の先を見ると、ルキノとセルランが二人だけで楽しそうに話しながら歩いていた。
「……ん? メルオープさまとヴェルダンディさまではないか。一体どうかしたのですかな?」
タイミング悪くカオディが現れた。
今全く話が出来なさそうなメルオープの代わりに俺が話を聞こう。
「いや、何もないですよ!」
「どうしたのですか? メルオープさまも固まって」
「そうだ! カオディさまはダンスパーティーは誰と踊るつもりなんですか?」
そこでカオディは暗い顔をしていた。
一体何があったのか。
「実はその件なのですが断られました」
「あーー、それはあれだな。気にしないでください。ちなみに誰を誘ったのですか?」
「シュトラレーセの領主候補生であらせられるラナさまです」
また気が強い女性だな。
それも完全上位領地じゃないか。
家が絶対に許可しないだろう。
「おお、同士よ! 辛かったな」
「ぬぉっ!?」
いきなりメルオープがカオディに抱き付いた。
放心状態だったが、話はしっかり聞いていたようだ。
「い、一体どうしたのだ! 教えてくださいヴェルダンディさま!」
「まぁ、その……あれです。一度落ち着ける場所で話しましょう」
一旦、中庭のベンチへ向かった。
こういうのは外で話をするのがいいだろう。
そう思っているとすでに先客がいた。
それはマリアさまを前に襲ったビルネンクルベの上級貴族のルブノタネだった。
だがどういうわけ放心状態だった。
……これは、もしかしてこいつもか?
「っよ! 元気か」
ここは俺が声を掛けるべきだろう。
一度ルブノタネがこちらを見て、また下を向いた。
「もしかして、ダンスパーティーの相手に断られたのか?」
そこでビクッと体が震えた。
どうやら当たりのようでさらに落ち込んでいた。
そこでカオディがルブノタネの肩を持った。
「同志よ、一緒に話さないか?」
「え……、もしかして貴方も?」
カオディが優しく頷くと、ルブノタネは涙を流してカオディの胸に飛び込んだ。
……一体俺は何を見せられているんだ?
メルオープが二人に近づいた。
そこでルブノタネがメルオープの顔に気付いた。
「まさか、メルオープも……」
「そのようなものだ」
「ふん……しょうがない。聞いてやろう、ただしここではなんだから、俺の自室へ来い。そっちの方がいいのだろう?」
「ルブノタネ……」
ガシッとお互いの肩を抱き合った。
俺はこの場を離れようとしたが、何故か一緒に連れていかれた。
ルブノタネの自室に入り、テーブルに男四人で座った。
「まさかビルネンクルベの寮に入ることになるとはな」
「俺も自室に入れることになるとは思わなかったぞ。……あいつらには悪いことをしたな」
「その言葉はあいつらに言ってやってくれ」
「それもそうだな……、それで何があったんだ」
そこでメルオープが話し始めた。
最初は真剣に話を聞いていたが、途中から全員が沈んでしまった。
「セルランさまか……厳しいなぁ」
カオディが呟くと全員が頷いた。
誰もセルランに勝てるところを思いつかないのだろう。
ルブノタネがおもむろに呟いた。
「いや、一つだけ方法がある」
ルブノタネをメルオープは見た。
一体どんな方法があるのか、全員が知りたがっていた。
「どんな方法だ!」
メルオープはテーブルから乗り出して、その答えを知りたがった。
「無謀な賭けだが、セルランさまを倒して、自分の愛する女を手に入れるのが男ってものだろう」
俺は衝撃を受けた。
セルランを倒して、好きな女性に振り向いてもらう。
単純だが簡単に自分の優秀さをアピールできる。
そこで一人の男の顔が浮かんだ。
「なるほど……、だがいけるか? あのセルランさまを倒すなんてことがーー」
メルオープの弱気な発言が出た瞬間、ルブノタネがメルオープの胸ぐらを掴んだ。
そこで俺は止めるべきか悩んだ。
「手に入れるのか、取られたいのか、どっちだ!」
ルブノタネの言葉が心を揺さぶった。
それは全員がそうだ。
メルオープの目も変わった。
「ああ、そうだな。芸術祭の日に勝負を挑む。わたしは……いや、俺はマリアさまの剣になる男だ。必ずや勝ってみせよう」
俺たちは今日からメルオープを応援するのだった。
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