第三章 芸術祭といえば秋、なら実りと収穫でしょ!

70/73
前へ
/259ページ
次へ
 芸術祭も終わり、今年の季節祭で初めての敗北を味わった。  マリアさまはかなり落ち込んでおり、その後アクィエルさまがやってきた。 「ぷぷぷ、残念でしたわねマリアさん。まさかあのような絵を出すなんて、わたくし驚きすぎて声が出なくなりましたわ」 「まさかアクィエルさんに負けるなんて……」  評価されなかったこととアクィエルさまに負けたことが本当に悔しい様子。  絵以外では接戦だったのだが、最後の演目だったこともあり、大きく順位を落として四位に落ち着いた。  アクィエルさまの領土は一位だったため、完全に負けたことになる。 「おーほほほ、まあわたくしにかかれば一位も簡単ですね。わたくしの作品を出す必要がなくて本当に残念ですわ」 「……アクィエルさまのはわたしたちが必死に止めただけで、センスは変わりませんぞ」  小声で言っているのはアクィエルさまの護衛騎士であるレイモンドだ。  お互い苦労する主人を持っているようだ。 「う、うーん……」  ルキノもやっと気が付いたようだ。  ベンチの上に寝かしていたので、寒くならないようにメルオープがローブを被せていた。  メルオープに彼女のことは任せよう。 「気が付かれましたか?」 「はい、お見苦しいお姿をお見せしました。ローブをありがとうございます」  ルキノはローブを返して立ち上がった。  そして周りを見渡した。 「芸術祭はどうなりました?」 「マリアさまの絵が評価されず四位に落ち着きました」 「やはりさっきのは夢では無かったのですね。一体いつの間にあんな物を作っていたのか」  センスは置いておくにしても、かなり凝った作品だった。  数日で出来上がる品でもないはずだ。  おそらくこっそり抜け出していたはず。  どうせ下僕か誰かを脅したのだろう。 「これで芸術祭も終わりですね。あとはダンスパーティーで大きな行事も終わりですね」 「ルキノさまは今日のダンスパーティーには参加されるのですか?」  メルオープが無駄な言葉を省いて直接聞いた。  ルキノは少し困った顔をしており、すぐに苦笑いをしていた。 「わたくしは参加しません。ダンスは苦手ですので、周りの人に迷惑を掛けてしまいますから」 「そんなことは……ないですよ。わたしがエスコートします。だからーー」  メルオープがここで勝負を掛けにいった。 「メルオープさま、大変申し訳ないがルキノは今日予定が入っている」  だがそれはセルランによって遮られた。 「やはりそうか……」 「ん……? 何がですか?」 「いいえ、何でもありません。セルランさま、もしよろしければわたしと一本勝負をしませんか?」 「なに?」  メルオープはトライードをセルランへ向けた。  周りの生徒たちがそれに気付いて騒ぎ始める。  それに気付いたマリアさまもこちらに駆け寄ってきた。 「メルオープ、セルラン! 一体なにをしていますの!? ここでの喧嘩は許しません!」  このままではまずい。  俺は急いでマリアさまに弁解した。 「違うんです、マリアさま!」 「ヴェルダンディ? 何か知っていますの?」 「メルオープはマリアさまの剣となるためこれまで訓練をしてきましたので、その成果を最強の騎士で試してみたいそうです!」  完全な出任せだが、もう騒ぎになっている以上、適当な理由を付けるしかない。  だが思いのほかセルランは愉快げに笑って見せた。 「ほう……、いいだろう。わたしを差し置いて剣を名乗るのだ。マリアさま、少しの戯れをお許しいただけますでしょうか?」 「セルランまで……、なら魔法は禁止でお願いします。使うのは殺傷性を無くしたトライードのみで、降参した方の負けにします」  どうにか許可をもらうことが出来た。  一応、セルランを想定した練習はしてきた。 「戦いに応じてもらいありがとうございます」 「これくらい問題ありません。では始めましょうか」  セルランがトライードを構えた瞬間、メルオープは走り出した。  先手必勝で勝負を決めにいく。  だがそんな行動すらセルランは慌てたりしない。  メルオープは三叉の槍でセルランへ向けて突きを放つ。  だがセルランは突きを払って、それによってガラ空きになった胴を薙いだ。  大きく吹き飛び、決着が付いた。  身体強化すら使っていないのに動きが変わらない、これが化け物だと肌で感じた。  セルランはメルオープに近付いて手を貸して立たせた。 「良い突きだった。わたし以外ではやられていただろう」 「流石はマリアさまの騎士です。貴方ならお願いできる」 「お願い? 何のことですか?」 「いいえ、何でもありません。本日はお相手頂きありがとうございます。これにて失礼します」    メルオープは一礼して、そのあとマリアさまにもお礼を言ってその場を後にした。 「一体どうしたのでしょう? 急にセルランに戦いを挑むなんて……」  ルキノが少し心配そうにしている。  それとなくフォローしておくか。 「まあ、男にはどうしても戦わないといけない時があるんだよ。さて、俺も今日はダンスパーティに参加する準備をしようかね。ルキノも俺たちに構わずセルランと羽を伸ばすんだな」 「セルラン? どうしてわたくしがセルランと何処かに行かないといけないのですか?」 「はへぇ?」  どうも食い違いがあるぞ。  これは確かめないといけない。 「セルランに贈り物するって言わなかった?」 「何を勘違いしているのですか。あれは日頃お世話になっているステラとセルランに贈るために聞いたんですよ」  体が脱力した。  どうやらただの思い過ごしのようだ。 「なんだ、そうなのか。じゃあ何でダンスパーティーに参加しないんだよ」  ルキノの体が一瞬ビクッと反応した。  そこで失言したことに気が付いた。  聞かないようにしていたのに、思わず口から出てしまったのだ。 「いや、その、別に言わなくていい! 俺は全く興味がない!」  俺はプイッと背を向けた。  あまり同僚が隠しているものを無理にほじくることはしたくない。  それなのにいきなり後ろからプシュっという音が聞こえたと同時に花の匂いが香ってきた。 「うぉっ!」  俺はいきなりのことで後ずさった。  一体何事かと思ったが、ルキノが俺に香水を振りかけていたのだ。  ルキノは俺の驚く姿を見て笑っていた。 「いきなり何するんだ!」 「ごめんなさい、まさかそんなに驚いてくれるなんて。はい、ヴェルダンディの分」  そう言って俺に香水を渡してきた。  一体どういうつもりだ? 「今までお世話になった人に渡しているって言ったでしょう。これからもよろしくね、ヴェルダンディ」  それだけを言って、ルキノは何処かへ行った。  貰った香水を見て、あることが気になった。 「俺ってそんなに臭うのか?」  それからダンスパーティーがあり、相手がいるものはその相手と踊る。  メルオープは参加者の女性と踊っていた。  カオディはちゃっかりアスカと踊っている。  どうやら今日相手がいないことで寂しがっていたら、アスカに慰めてもらったようで、一緒に踊ってくれるよう頼み込んだらしい。  マリアさまはウィリアノスさまと踊られている。  悔しいが美男美女で絵になる。  そしてさらに同じく同僚のディアーナとエルトもお似合いのカップルだ。  誰もがその二組の踊りに目を奪われていた。 「本当か、ヴェルダンディ!?」  ダンスの休憩時間にメルオープにルキノとセルランのことは伝えた。  それで元気を取り戻して、後日告白したが実らなかったそうだ。  そして風の噂だがルブノタネはその日風邪を引いてダンスパーティーに行けなかったとさ。
/259ページ

最初のコメントを投稿しよう!

468人が本棚に入れています
本棚に追加