第四章 学術祭は無数にある一つの試練

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 試験当日がやってきた。  この学術試験の成績によっては進級自体が危ぶまれる。  わたしはふと、レティアが緊張して少し呼吸が荒くなっているのに気が付いた。 「レティア、そんなに心配しなくても大丈夫よ」  レティアの手を握ると手が冷たくなっていた。  だが少しずつ暖かくなっていく。 「はい、でもわたくしも少しは貢献したいです」  力強くレティアは答えた。 「いつもどおりやれば大丈夫。サラスとピエールから教わった日々を……思い出さなくてもいいわね」  二人の指導は本当に辛かった。  とにかく拘束時間が長く、罰も多い。  だがそのおかげで学力についてかなりの向上があったといえる。  レティアも自分からわたしと同じ授業を受けたりと前へ進もうと努力していた。 「っよ、マリア!」  わたしを呼ぶ声に気付いて教室の入り口を見るとガイアノスとウィリアノスが来ていた。  ガイアノスはニタッと気持ちの悪い顔をしており、ウィリアノスはわたしの顔を見ようともしない。 「おはようございます」  わたしは軽く挨拶だけ済ませた。  だがそれだけで終わらせるつもりはないようで、わざわざわたしの席の前までやってきた。  わたしの顎を上げてくる。 「なんだ元気そうじゃねえか」  わたしはその手を払い除けた。 「お生憎にも」  こういうクズの男なんかと関わりたくない。  だがこの男は何も気にしてはいない。 「まあ頑張れよ。もっとお前の楽しい顔を見たいからな」 「そうね、わたくしも見たいですね。試験の成績でわたくしに負けるところを」  そこでガイアノスの顔に青筋が立った。  何かしてきそうな雰囲気を漂わせた。 「オーほほほほ、みなさんお早いのですね」  高笑いをしながら入ってきたのはアクィエルだった。  その声でガイアノスもいくらか落ち着いたようで自分の席へ去っていった。  アクィエルはわたしの席の隣にやってきた。 「御機嫌ようマリアさん、それにレティアさん」 「おはようございます。アクィエルさまは今日もお美しいですね」 「まぁ、レティアさんは本当にできた妹ね」  レティアのお世辞を真に受けたのか上機嫌だ。  そういったことはレティアに任せよう。 「アクィエルさまも今日の試験は一位を目指していますの?」 「もちろんです。ここで成績上位者がたくさん出てわたしが一位を取れば十分季節祭でも優勝を目指せますからね」  珍しくアクィエルも勉強をしてきたようだ。  何かとわたしと張り合ってくるので、もしかしたらかなり勉強してきたのかもしれない。  よく見ると目元に隈が見える。 「それは無理な話です。なぜならわたくしが一位をいただきますので」  わたしは彼女に宣言した。  だが彼女は気分を害することもなく笑っていた。  少し時間が経つと先生たちが入ってきて、答案用紙を渡された。  先生が問題を二回読み上げるので、その間に答案を埋めていく。  帝王学、算術、魔法理論、魔法工学、錬金理論、神学の試験を行なっていく。  だがどれもわたしの敵ではない。  今年は比較的簡単なほうだ。  奇問や難問はなく、スイスイと解けていく。  ウィリアノスもこれくらいなら簡単に解いてくるだろう。  そうすると単純なミスが勝敗を分ける。  そこでチラッとウィリアノスがこちらを見たような気がした。  ……負けてはいられない。  わたしはこれまで頑張ってきたのだ。  こんな試験で躓いてはいられない。  試験が終わった。  全てを出し切った。  結果は明日発表があるので今日はゆっくり休もうと思う。  側近たちと話し合いをした後にレティアがやってきた。 「お姉さま、少しだけお時間よろしいですか?」  就寝前の時間だが少しくらいなら相手ができる。  わたしは彼女を呼んだ。  初めての大きな試練で彼女も疲れただろう。 「今日はどうでした? これまでの頑張りの成果は出ましたか?」  わたしは尋ねると大きく頷いた。 「はい、ただ何問かは全く分かりませんでした」  まだ一年生であるレティアだと難しい問題もあるだろう。  範囲も広いので半分も出来れば優等生だ。  特に魔法工学と錬金理論は実習をほとんど行っていないはずなので、なかなか知識が結び付かないはずだ。 「これからどんどん分かるようになるはずです。五大貴族として生徒の模範を示すためにも、また来年からも頑張りなさい」 「はい。お姉さまはどうでしたか?」  わたしは今日の試験とこれまでの勉強を思い出した。  帝王学と算術は領土のために動くことでできるようになった。  神学は眷属から助けられたことで興味が出た。  魔法理論は魔力が扱えるようになってから覚えが早くなり、魔法工学は魔法祭に向けてアリアを手伝ってから造詣が深まった。  錬金理論はこっそりマリアーマーを改造しようとして詳しくなり、ステラにバレてしまい実装は出来ながったが理論だけは完成している。  予想以上にわたしは全てのことが一連の流れの中で成熟していったようだ。  やはり何事も主体的に動いて初めて身につくものだと感じた。 「出来ることはやりました。これほど頑張って一位になれなかったら、それは一位になった人がそれほど頑張ったのでしょう。ウィリアノスかアクィエルさんか……もしかしたらレティアかもしれない。明日その結果が分かります。願わくば……」  わたしは先日入った情報を思い出した。  顔が自然と強張った。 「お姉さま?」  少し暗い気持ちになったせいでレティアから心配そうな顔を向けられた。  わたしは彼女の頭を撫でて安心させた。 「さあ、もう寝ましょう。明日は朝早くから表彰があるので遅れたら怒られるわよ」 「はい、おやすみなさい」 「おやすみなさい」  わたしもすぐに眠りに付いた。  夢の中で眷属たちがわたしに何かを話してくれた。  一体何を言ったのかわたしには分からなかった。  ただ白い口が見えたような気がした。
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