第四章 学術祭は無数にある一つの試練

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 朝になり領土ごとに訓練場で整列をした。  冬の寒さは魔法によって遮断されている。  みんな少なからずそわそわしていた。  なぜなら今日をもって王国院は長期の休みになるからだ。  冬の間は社交がメインになるので、暖かくなる春に進級をして授業が始まる。  全員が静かになってから、王国院最高責任者であらせられるムーサさまが各学年ごとに優秀者を発表するのだ。 「一年生ーー」  ジョセフィーヌ領土からは二人選出された。  レティアの友人でわたしとも縁がある。  言ってしまえば大貴族なので当たり前の二人だったとも言える。  三領土からは選出はなかった。  他領ではあるが、アリアもしっかり選出されていた。  流石はスヴァルトアルフ領は優秀だ。  アリアを含めると三人も入っている。 「二年生ーー」  こちらはわたしの領土からはエリーゼのみだ。  王族領とスヴァルトアルフが大半を占めている。  ……やっぱり資本が違いますね。  上位領地が多い領土はそれだけ経済の中心となりやすい。  平均が上がればそれだけ上位の成績も高くなるのだ。  一年生で二人も優秀者が出たのはレティアという五大貴族の末裔がいたからで、それに奮起させられたのだろう。  次の三年生からはわたしと同じ年だ。  ここからは上位者の影響力が反映される。 「三年生……ほう」  一度ムーサさまの声が止まった。  一瞬こちらを見た気がする。  ……そういえば下僕の名前を思い出すチャンス!  わたしはこれまで下僕の名前を忘れていたことを思い出した。  だがそれを思い出したと同時に読み上げられていた。 「~~ルクセンブルク」  ……聞き逃した!  下僕の家の名前であるルクセンブルクがもう流れていた。  何だか急に彼に申し訳ない気持ちが湧いてきた。  だが一人は呼ばれたので喜ばしい。 「やったわね、下僕!」 「はい!」  前に行こうとする下僕に労いの言葉を掛けた。  続けて呼ばれた。 「レイナ・ギネス」  二人目はレイナだ。 「おめでとう、レイナ!」 「どうにか入れて良かったです」  謙遜気味に彼女は前に出た。 「ラケシス・ヘイスティングス、ヴェルダンディ・オルレアン、アスカ・グレンヴィル」  さらに三人呼ばれた。  三年生の側近は全員呼ばれたので何だか主人として誇らしい。 「おめでとう、ラケシス!」 「次期当主の側近として当然です」  そうは言っているがラケシスは嬉しそうだ。 「頑張ったわねヴェルダンディ」 「へへ、十日寝なかった甲斐がありました」  化け物発言を平気で言うが、それほど本気で取り組んでくれということだろう。  ……今日はゆっくり眠りなさい! 「アスカも他によそ見をしなかったのね、偉いわ!」 「もっと研究したかったですけど、こっちも大事ですから。二つを並行しました。おかげで十日間は一睡も出来ませんでしたが」  ……勉強する時間が無いから睡眠を削ったってことね。  発想の転換が恐ろしい。  でもそれほどこの試験を大事だと感じてくれたことは嬉しい。  さらに友人であるカナリアも入っている。  三年生だけで言うと、六人も選出されている。  これは健闘どころではない。 「ムキィィい! どうしてわたくしの側近は誰も入っていませんの!」 「お、落ち着いてくださいませアクィエルさま!」  何だかアクィエルが遠く叫んでいる。  ……これがカリスマの差かしら?  わたしは上機嫌で上を見ると鳥のふんが落ちてくるのが見えて、急いで後ずさることで避けられた。  よく見るとフヴェズルングが空で漂っていた。  調子に乗るなと言っているようだが、あの狼に言われると腹が立つ。  だが慢心は良くないと自戒する。  前に出たレイナがわたしを見ていたので、心を読まれる前にわたしは無心になった。 「今年のジョセフィーヌ領は優秀ですね。今後も期待しております」  ムーサさまからお褒めのお言葉を頂いた。 「四年生、ルキノ・ロレーヌ、ディアーナ・キャベン」  これで側近のほとんどは選出された。 「おめでとう、ルキノ!」 「やっと緊張から解放されます」 「おめでとう、ディアーナ」 「ありがとうございます」  他にも領主候補生である、メルオープとユリナナも選出されていた。  メルオープが入ったことで周りが騒ついた。  パラストカーティから選出されること自体が数十年振りだ。  これで少しは悪評が減ることを祈るばかりだ。  これで残るはリムミントだけだ。  しかし彼女に関しては何も心配していない。 「五年生、リムミント・デヴェル」  彼女は五年連続選ばれている。  秀才の中の秀才だ。 「おめでとう、貴方だけは何も心配しなかったわ」 「そのお言葉で救われます」  残念ながらカオディは入れなかったようだ。  彼はお仕置きが必要なようだ。  だが、頑張ってはいたので軽い鞭打ち程度で済ましてあげよう。 「ひいぃ」  カオディらしき悲鳴が聞こえた。  どうやら殺気が漏れたようだ、抑えないと。  その後ラナも選ばれており、流石は上位領地の領主候補生だと感心した。  予想以上にジョセフィーヌ領から選出されたので、これなら優勝は間違いないだろう。  最後は王族と五大貴族の成績発表だ。  わたし、レティア、アクィエル、ウィリアノス、ガイアノスそれと傍系血族が前に出る。  この国の象徴であるわたしたちの成績はこの国の行く末を決めるものだ。  わたしたちは全ての人間の模範でないといけない。  注目が集まる中、ムーサの表情が暗い。 「最後の発表なのにこれほど暗い話をしないといけないことは皆さんへ申し訳がないです」  ムーサがいきなり謝罪を口にしたことであたりが騒ついた。  そこでウィリアノスがわたしを見た。 「マリア、今ならまだ許してもらえる」  彼は真剣な眼差しでわたしを見た。  だがその目は濁っているのか、何一つ彼に魅力を感じない。 「許す……とは何のことですか?」  わたしは聞き返した。
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