第一章 魔法祭で負けてたまるものですか

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 三日後の朝に魔術棟へと向かう。  マンネルハイムも大事だが、魔法研究に関しても重要だ。  どちらも好成績を出さなければ魔法祭では優勝できない。  文官たちから研究所の選定をしてもらっており、三つの研究所まで絞られているとのこと。  二つはシュティレンツとゴーステフラートの研究所、もう一つはシュトラレーセの研究所だ。  一度その研究所の視察のため、下僕、リムミント、アスカの文官三人を連れてきた。 「今回は下僕の入っている研究所でしたわよね」 「はい。主に過去の魔法について研究しています。おそらく何かしらお役に立てると思います」 「そう、期待していますからね」  下僕は嬉しそうに話す。  だが少しばかり不安もある。  下僕が入っている研究所だからではなく、先生が王国院内一変わり者だからだ。  わたしと同じことを思ってかリムミントも少し頭を悩ましている。 「確かにあの先生は優秀だと思いますが、関わりたくはないですね」  リムミントの言葉に同意しつつ、目的の部屋の前へと辿り着く。  下僕がノックをして、自身の名前を名乗ると入っていいと許可が返ってきた。  下僕がドアを開けると、そこでは中年の細身の男性が机の上で頭を悩ませている。  部屋はかなり埃臭く、様々な紙が落ちており、足の踏み場もない。 「ホーキンス先生、姫さまが来ることを伝えたはずですが?」 「おっと、すみません。研究に没頭しておりました故忘れておりました」  ホーキンス先生は寝不足で出来たクマを隠すことなく、ニカッと笑って急いで片付ける。  だがこの埃を無くすため掃除しようとすると、夕方になってしまう。  しょうがないのでリムミントが近くの会議室を押さえて、そこで会談となった。  ホーキンス先生は席に着くと白衣のポケットからタバコを取り出す。  そこで慌てて下僕が取り上げる。 「なっ、何をする! 」 「何をするじゃないですよ、先生! マリアさまの前だけでいいですから、そういった不遜な態度だけは取らないでください! 」  そう、この先生はわたしだろうと特に敬ったりしないのだ。  自身の研究にしか興味がないため、授業すら放り出す。  わたしは相手が興味を無くす前に早めに切り出すことにした。 「ホーキンス先生、お願いがあります」 「お断りです。他を当たってください」  にべもなく断られた。  まさか何も提案することも出来ずに断られるとは思っておらず、口を半開きにする。  そこでリムミントがわたしの言葉を聞かずに話を終わらせようとする態度に対して抗議する。 「無礼ですよ、ホーキンス先生! 姫さまの話を全く聞かずにその態度はアビ・ゴーステフラートに報告しますからね!」 「お好きにしていいですよ。もしここから追い出されるならマリアさまと仲の悪い他領に移るだけですから」  ホーキンス先生は悪びれずに答える。  ホーキンス先生は特に自分の立場には欲がない。  ただ研究がしたいだけのため、誰であろうとこの態度なのだ。 「どうして、何も聞かずに断るのですか? 今回はかなりの予算をそちらに与えることができますのよ?」 「だからですよ、マリアさま」  予算をもらえるから引き受けない。  わたしには全く理解できない。  ホーキンス先生はわたしの反応を窺わずに、眠い目をつぶり、腕を組んで話す。 「今まで特に援助はもらえなかったのに、今後は援助をもらえる。それはつまり、その分の見返りを寄越せってことでしょ? 僕はね、自分の知的好奇心を満たしたいだけなんですよ。でもその援助をもらったら僕は自分よりあなたのための研究を優先しないといけなくなる。それが嫌なんです」 「どうか先生お願いします。マリアさまのために少しでもいいので手伝ってください」 「六番よ、君の優秀さに免じて今回この席に座った。次回はない。僕はもうここには用がないからね」  ホーキンスは弟子を番号で呼び、それで終わりと席を立つ。  下僕も考えを変えてもらおうと説得するが考えを翻さない。  そこで昔の記憶を思い出す。  前に下僕がホーキンス先生がわたしの蒼の髪について興味を持っていることを話していた。  わたしは賭けてみることにする。 「ならわたくしの研究をしてみたくはありませんか」  ドアの前まで向かっていた、ホーキンス先生が立ち止まった。  眠たいまぶたを大きくあけて、ゴクリと音を鳴らす。 「姫さま、何を言っているのですか! 嫁入り前にそのような発言はおやめください」  リムミントの言う通りだが、インパクトのある言葉がこれしか思いつかなった。  だが、効果はあった。  ホーキンス先生は椅子に座りなおした。 「本当にその髪の伝承を調べる協力をもらえるんですか?」 「ええ、そのためにはこちらへの協力もお願いします。しっかりこなしてくれるのでしたら、ご自身のやりたい研究もなさってくれて構いませんので」 「ええいいですとも。では古代魔法と歴史について技術提供をいたします。その研究で姫さまに手伝っていただきたいのです」 「わかりました。行いたい日を事前に下僕に伝えてください。お手伝いにいきますので。シュトラレーセにも協力をお願いしておりますので、共同研究についても参加お願いします。あとは文官を通して進めてください」 「かしこまりました。ほかの領と対照実験もできますので、お受けしましょう」  どうにか共同研究もうまくいきそうだ。  次は錬金術の研究所だ。
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