第一章 魔法祭で負けてたまるものですか

30/61
前へ
/259ページ
次へ
 訓練場に全領土の学生たちが集まる。  全員が鎧を着て、練習とはいえマンネルハイムを楽しみにしていたのだ。  わたしも今日から実際に練習の成果を見ることができるので楽しみにしていた。  練習が始まるまで、わたしたち五大貴族は貴賓席に集まるのだった。 「あらっ、マリアさん。噂を聞いておりますわよ。特例を申し出たそうですね。どうやって領土を盛り立てていくのか今から楽しみですの。もし困ったことがあったら、ゼヌニムも協力してあげてもよろしくてよ」 「アクィエルさんはお優しいですわね。でも結構ですわ。足を引っ張られても困りますからね。シュトラレーセという優秀な領地が手伝ってくれますから、何も心配はありませんの」  わたしはアクィエルと会うとすぐにいつものようにお互いに皮肉を言い合う。  レティアは軽く頭を抱えてわたしを抑える。  わたしはウィリアノスさまへ少しでも気を引こうとしたが今日はしっかりこちらを見てくださっている。  少し熱っぽさを感じながら、挨拶しようとすると今日は思いがけない言葉が出た。 「マリア、数日前からマンネルハイムの練習を始めているらしいな」  ウィリアノスさまがわたしに話しかけてくれた。  いつもならわたしから話しかけるのが常なのに、これほど嬉しいことはない。 「はい、ウィリアノスさま! 今年は優勝を目指して領土一丸となって頑張る次第です」 「ぷっ、領土一丸といっても、ゴーステフラートの生徒たちはあまりやる気になってはいないではありませんか」  わたしの発言をいちいち止めるアクィエルにイラつきながらも、闘技場のほうを見るとゴーステフラートの生徒は特に何かするわけではなく、お喋りするものが目立つ。  ユリナナがあまり協力的じゃない以上、他の者もあまりやる気がないのだ。  そこでハッとなってウィリアノスさまとのお話中だったことを思い出す。 「まあ、どっちでもいい。いい加減スヴァルトアルフとの対決しか面白みのないマンネルハイムも飽きてきたところだ。少しは期待しておくぞ」 「頑張ります! もし優勝したら、一緒にお祝いでーー」 「お姉さま、そろそろ始まります。まだお着替えもしてないのですから急いで向かわないと」  レティアの言葉で最初にマンネルハイムを行うのはジョセフィーヌ領とスヴァルトアルフ領だったことを思い出した。  さすがにドレスで参加するわけにはいかない。  わたしはウィリアノスさまに席を離れることを伝えた。 「あら、マリアさんは今日のマンネルハイムはご覧になりませんの?」 「お姉さまは選手として参加しますの。このためにかなり色々な本を読まれて頑張っておりますのよ」  ……レティア、わたしの努力を簡単にバラさないでー! 「参加なさいますの? マンネルハイムにマリアさんが? 」 「本気か、マリア? 次期当主のお前が出るのは流石に危ないだろ!」  レティアの話を聞いた全員が驚いた。  アクィエルが驚くのは予想通りだが、ウィリアノスさまから心配の声が聴こえて少しばかり胸が熱くなる。  今日はいつも以上にわたしに感情を向けてくれる。 「大丈夫ですわよ。わたくしには素晴らしい騎士たちがいますから」  わたしは笑顔でウィリアノスさまに答えた。  それに虚を衝かれたような顔をして、愉快げに笑ってみせた。  一瞬肌がゾワっとする感覚に襲われた。  わたしには隣にいるガイアノスの目が光ったように一瞬見えた。  すぐにわたしは専用の青い鎧を身につけて、指揮官として全員の先頭へと向かう。  わたしが参加することを知らなかった領地からは、ざわめきが広がっていく。  女性の参加者が少ないのに、五大貴族の令嬢が出るのはかなりのインパクトになっているようだ。  今日参加することを知っているのは側近たちと水の女神に入っている者たちだけだ。  情報を出さないように言い渡していたので、ユリナナ、カオディ、メルオープの各領主候補生も驚いて、観客席から身を乗り出している。  クロートからの指示だったため行なったが、十分伝わったようだ。  ……これで領主候補生たちも参加してくれるでしょう。  わたしはセルランの出した水竜に乗って、空へと舞い上がる。  腰を支えてもらいながらゆっくりわたしは竜の背中で立つ。  ……下を見ない、下を見ない。  場所も高いため、わたしは恐怖心を隠すため、目線を水平に向ける。  まだ騎獣を持っていないので、飛行練習をしていないのだ。  なのでセルランに支えてもらえないと立ち上がれない。  わたしはスッと息を吸ってお腹に力を入れる。 「皆さん、今日はよく参加してくださりました。例年以上の参加だと聞いております。今日伝えることは一つのみ。勝ちなさい!そのためならわたくしもみんなと共に戦場へ立ちましょう。勝ち取りなさい、勝利を! わたくしに勝利を捧げなさい!」 「我らが姫に勝利を届けよ!」 「勝利を!」  セルランの大きな声にわたしの側近たちも大声で応える。  次第にほかの参加者たちにも伝染していき、全員が声を張り上げた。  一体感が体を包み込み、全員の体から微細な光が上がり、水の神へと魔力の奉納が起きた。 「これは……、でもいいタイミング」  特に魔力を込めたわけでも、出すつもりもなかったがいい演出にはなっただろう。  あとは、スヴァルトアルフを倒して良い流れを作るのみ。  わたしは審判をしてくれる先生たちに準備完了を伝える。 「では、気を付けてください。ルキノ、ヴェルダンディ、マリアさまに怪我ひとつ許さない。絶対守り通せ」 「はい、姫さまに怪我一つ負わせません」 「任しとけ!」  セルランは護衛騎士の役目を告げて、観客席へと向かっていった。  わたしは気持ちを整えて、前方にいる敵に集中する。 「それでは、魔法祭競技、マンネルハイムを始める。両者、正々堂々始め!」  試合が始まった
/259ページ

最初のコメントを投稿しよう!

469人が本棚に入れています
本棚に追加