第一章 魔法祭で負けてたまるものですか

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 わたしはセルランに顔を向けるとセルランも真剣な顔をする。  とりあえずーー。 「セルラン、もうお腹が空きました」  セルランは肩をすくめてわたしの手を取ってエスコートする。  着替えずにそのままさっきの席へと座り食事を始める。  スープは新しく入れたみたいでまだ温かな湯気が立っている。  まずは味見でステラが食べる。  最初にフォークで切られた野菜から食べていく。 「あらっ、美味しい」  ステラのまさかの一言を聞いて、全員が料理を凝視する。  ステラはひと通り毒味を済ませ、わたしに食べるのに問題ないことを伝えた。  わたしは恐る恐る、野菜から口に運んでいく。 「本当ね。よく味付けされていますわね」  わたしは出されている料理をすべて口にしたが、どれもアビ・パラストカーティのお城で食べたものよりも美味しい  側近たちもなかなかご満悦のようで同意の声をあげた。  わたしはルートくんを呼んだ。  一緒に料理人を連れてくるように言うと、一緒にいつのまにか目を覚ましたパパも連れてくる。 「どうかなさいました、マリアさま? もしや味がお気に召しませんでしたか? 」  腰を低くして怯えながら尋ねる。  後ろにいる初老の料理人も目を閉じて何かに祈っている。 「いえ、すごく美味しいかったので、呼ばせていただきました。アビ・パラストカーティで食べた料理より美味しいです。よく研鑽を積んでいますのね」  わたしの言葉に料理人も感極まったような顔になり、勢いよく頭を下げた。  今日の食事を終えて、また次の日になった。  湖のある場所へと向かい今日は二度目の挑戦だ。  昨日踊っていた平民たちにも協力をもらい一緒に踊ってもらう。  だが何故昨日失敗したのかはわかっていない。  もしここで失敗したら、次はどうすればいいのだろう。  あまりここで時間をかけ過ぎると、ヴェルダンディの命が助からなくなる。  わたしは早く試さなければならない。  ステージへと向かおうとしたその時ーー。 「マリアさま、もう少しですよ」  下僕がわたしに語りかける。  わたしが下僕の顔を見てみると、いつもは眠そうな顔をした覇気のない顔をしているのに、今日だけは自信に満ちた顔をしている。  何故彼はここまで自信満々なのか。 「マリアさまなら必ずできます。だから、ぜひ楽しんでください。昨日のマリアさま以上に美しい方はこの世にはおりません。きっと神さまも喜んでいるはずです」  下僕の真剣な言葉に不思議と笑いが出る。  普段照れてばっかりのくせに言えるようになってきたじゃない。  わたしは自信満々に答えるのだった。 「わたくしは、五大貴族のマリア・ジョセフィーヌよ」  平民たちの準備が終わり、奏者たちの調律もできた。  そして演奏が始まった。  ……わたしについてきなさい。  ゆっくりと前奏に合わせて踊り始めた。  踊る、踊る。  それだけを必死に考えて、舞い続ける。  次に後ろの方で踊りが始まっている。  わたしは後ろで踊っている者たちに負けない存在感をもって、力強くステップを踏む。  わたしがこの者たちをまとめるのだ。  一体感がこの場を支配した。  踊りに身を捧げ、神への賛歌が聴こえてくるようだった。  全身から魔力が出てきているがほとんど疲れはない。  次第に目の前が真っ白に見えた。  また全員の体から魔力が出ているのだろうか。  ステージが光り輝いている。  そこには見たこともない大きな魔法陣が描かれていた。  …………キャウ。  何かが聞こえた気がした。  だが今は踊りに全身を捧げているので答えることはできない。  乱雑になっていた光がわたしの周りへとくる。  光全てをわたしを中心に凝縮させ、その光を踊りとともに舞わせた。  どんどんその光は天へと昇ろうとするので、制御が難しくなってきているが、意地でもわたしと一緒に踊ってもらう。  そして踊りの最後になり、その瞬間がきた。  昨日以上に集まったすべての光を空へと送った。  水の神へ届け!  すべての光が空へと向かったと思ったら空で光が弾け、至るところへと飛び散っていくのだった。  その光は湖があった場所にも向かっていった。  幻想的な瞬間も終わり、わたしはその場に膝を突いた。  魔力の消費はほとんどなかったが、踊りに夢中で初めて全力で踊りきった。  すぐにセルランがわたしの元へやってきて、心配そうに名前を叫ぶのでわたしは手で制した。  ゆっくり息を整えながらわたしは周りの光景に目を奪われた。  さっきまで土しかなかった場所からすくすくと草木が生え始めて、枯れていた木が元の生い茂る木々へと変わっていく。  枯れた土地に恵みがもたらされたのだ。 「な、なんだこれは!」 「奇跡だ」  平民たちが騒ぎ出す。  土地が死にかけているのを黙って見ているしかなかった。  だが今、土地の復活を目の当たりにした。  アビ・パラストカーティとメルオープも目を見開いて、草木が生え始めた場所を見て回る。  花も生えている場所もあり、まるで慈しむようにメルオープは花に手を添えた。  ラケシスとレイナも竪琴を持って、ステージの前へとくる。  この光景を目に焼き付けるために。 「これが蒼の髪の女神! すごい……、凄すぎますわ! 流石は姫さま、わたくしはこの日のために今日を生きてきました!」 「す、すごい。荒れた土地のパラストカーティが一気に潤いを取り戻していく」  ラケシスとレイナは感嘆の声をあげる。  だが二人だけではない。  他の者たちも、全員が信じられない光景に目を奪われている。  だがわたしはそれよりも当初の目的を果たさなければならない。 「湖はどうなりました!」  わたしはセルランに騎獣を出してもらい、湖の場所へと連れていってもらう。  わたしは恐る恐る目を開けて湖があった場所を見た。 「あ……、これでもダメなんですね」  そこは前と変わらず干上がったままだった。  わたしは落胆して頭をセルランの鎧に委ねた。 「マリアさま、あれを!」  セルランが見るようにいった場所を見てみると一人の人影が湖のあった場所の隅に居た。  ……下僕? 「セルラン、下僕のところへ連れていってください」  セルランと共に下僕の元へ行くと、そこには水たまりがあった。  わたしとセルランは目を合わせて、近付いてみた。 「げ、下僕、それはもしかして?」  下僕もこちらに気付いて頷いて答えた。  トライードで自分の手に傷を付けて血を流し、ハンカチに水たまりの水を含ませて、傷口に当てた。  そしてすぐにハンカチを離すと、手の傷は完全に治っていた。 「治った……」  普通の水とは違う。  伝承通りの湖はできなかったがそれでも少なくともここにはどんな病気でも治してしまう水はあった。  わたしはすぐに瓶の準備をさせて、少量の水を採取する。  そしてアビ・パラストカーティに命令する。 「アビ・パラストカーティ」 「はい! 」 「この土地の経過を今後報告しなさい。どうなっていくかが今のままではわかりませんがおそらくまだまだ変化が起きるはずです」 「かしこまりました。たしかに拝命いたしました」  わたしはすぐに戻るため、側近たちに帰る準備を指示した。  これで彼を救うことができる。  一度パラストカーティの城へと戻るためにセルランの水竜へと乗る。  わたしはやりきったため、セルランに体を預けて軽い睡眠を取るのだった。
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