第一章 魔法祭で負けてたまるものですか

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 アビ・パラストカーティに滞在中のお礼を伝え、わたしたちは帰ることとなった。  また水竜に乗って、王国院まで向かう。  今回はわたしの側近だけ早く帰り、ホーキンス先生、メルオープ、ルートくんはゆっくり戻ることとなった。  また長時間の飛行は体的にきついがヴェルダンディのためにはこれくらいでへこたれている時間はない。 「伝承が本当で助かりました。これでヴェルダンディも助けられます」 「そうですね。しかし、こういったことはこれっきりにしてもらいたいです。マリアさまにもしものことがあるかもしれないと考える者たちは大変なのですよ。特に王国院に残った者たちは」  リムミントとディアーナのことだろう。  たしかに王国院内でのことを任せたせいで負担も大きくなっている。  少しはみんなを労わないといけないと考えていると、ラケシスが乗っている水竜がレイナを後ろに乗せて近寄ってくる。 「セルラン、マリアさまにもっと強く言ってあげてください。最近は無茶な行動が増えすぎな気がします」 「いいではありませんか。わたくしは今の姫さまの方が魅力的ですよ。神のお考えはわたくしたちでは理解できないように、姫さまもまたわたしたちでは想像もつかない先を見通されているのですよ。それならば黙って付いていくことこそが真なる配下ですよ」  ラケシスが当然のように言うがわたしは行き当たりばったりなので、あまり期待値を上げないでいただきたい。  ……まあ、失望されるよりはまだいいですが。  レイナもラケシスに言い返すつもりはないらしく、ため息を吐くだけだ。  セルランも肩を竦めた。 「今度サラスに伝えて、マリアさまの再教育計画でも練ってもらおうか」 「ちょっと、さらっと危険なことを言わないでください!」  サラスの教育なんて受けたくもない。  それをわかって言っているセルランの顔は悪ガキのような顔をしていたので、背中を軽く叩いた。  軽く笑いあっているときにステラの声が響いてきた。 「全員、トライードを構えよ! 姫さまを守れ!」  何事かと思うと、背後からデビルの群れが襲ってきた。  常に怒ったように怖い形相をして大きな犬歯を見せつけながら、こちらにやってきている。  かなり早い速度でこちらへ向かってきていた。 「マリアさま、お掴まりください。全員、遅れるな」  わたしはセルランの体を力一杯抱きしめて、次の行動に備える。  今戦うのは魔力の消費を早めてしまうので圧倒的に不利になってしまう。  だが少しずつこちらとの距離を縮められていた。 「仕方がない、ステラ、ルキノ、撃退しろ! 」  二人は了承して、水竜を敵の群れへと攻撃に向かわせる。  下僕とアスカは二人に身体強化の魔法をかけてサポートする。  二人の騎士のトライードがデビルの体を引き裂いていく。  かなり強い魔物だが、わたしの護衛騎士はそこらへんの騎士ではない。  しっかり魔物の生態について勉強しているので、的確に弱点を突いていく。  このまま殲滅しそうになったと思いきや、デビルたちは五体ほど固まり始める。 「キシャキシャ……キャキャ」  気持ち悪い鳴き声を響かせながら、その体は溶けて混ざり合った。  次第に大きな別の生物へと姿を変えていく。  先ほどのデビルと似た顔でありながら、その図体は人間の五倍はある。  そして頭には黒いツノが大きく生えていた。  その姿をみたセルランは驚愕で目を見開く。 「デビルキングだと……、自分の体を依り代に呼び寄せたというのか」  セルランの焦りがこちらにもわかる。  少し距離があるにも関わらず、かなりの威圧感がこちらにも伝わるのだ。  デビルキングの目がこちらに向いた瞬間、恐ろしい殺意がこちらの全身を蝕んでいるような気にさせる。  わたしは震える体を隠しながら、この凶悪そうな魔物について尋ねた。 「……デビルキングとはなんですの?」 「デビルの絶対者です。上級騎士が十人以上いなければ倒せない最高ランクの魔物です。このままでは全滅……ステラ!」  ステラはセルランの声に呼ばれ近付いてきた。  その間にルキノが敵を止めるため、一人で立ち向かう。  アスカと下僕が後方から攻撃の魔法を、レイナとラケシスは補助と回復の魔法で援護する。  わたしは嫌な予感がしてしまった。 「わたしが魔物たちを食い止める。そのため、マリアさまを代わりに送り届けよ」 「何を言ってますの! さすがに今のセルランではあの数は無理です!」  デビルキングは強い魔物だと自身で言った。  それにも関わらず、一人で戦おうなど流石に無謀だ。  普段のセルランなら何とかしてくれるかもしれないと期待したかもしれない。  しかし魔力を消費している今ではそれも難しいだろう。  セルランは優しい表情でこちらを諭すような優しい声を向ける。 「マリアさまを守ることこそが我らの存在意義です」 「いやです! 大事な側近を助けるために一人の側近を見捨てたのでは何も意味がありません」  わたしは自分がわがままを言っている自覚があった。  しかしそれでもセルランを失うわけにはいかない。  わたしは必死に考える。  この状況を打破する方法を。  王国院も目前であるので、全員の魔力が尽き掛けている。 「姫さま、今はわがままを言っている場合ではありません。セルランを信じてどうかこちらに」  ステラがこちらに手を差し伸べてきた。  ここで手を取ればわたしは助かるだろう。  だがわたしは……。  ……わたしのセルランを殺させはしない。  その時、わたしの魔力が抑えきれなくなった。
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