第一章 魔法祭で負けてたまるものですか

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 目を開けると、そこはいつもの自室だった。  少しずつ昨日のことが思い出される。  ……ヴェルダンディ!  起き上がると体のだるさがあり、起きるのがきついが今はそれどころではない。  わたしはベルを鳴らして護衛騎士たちに目覚めを伝えた。  すぐにステラが入室してきたのでわたしはステラに今一番気になっていることを確認する。 「ステラ、ヴェルダンディはどうなりましたか!」 「ご安心ください。無事薬を与えましたので外傷は綺麗に治りました」 「そうですか。よかった……」  わたしは安堵の息をもらした。  だが少しばかりステラの顔が暗いことに気付く。  真面目なステラの顔は物事を隠すのに向いていない。 「何かあったのですか?」 「それが、……まだ目を覚ましてはいないのです。医者の話ではあまりにもショックが大きかったため、もう少し様子を見ないと目を覚ますかはわからないとのことで」  カミナリをその身で受けたのだ。  それくらいのダメージが残っている。  だが傷は治ったのだから前よりはかなり希望のある話だ。 「ヴェルダンディを信じましょう。彼はわたくしの護衛騎士なのですから」  わたしは服を着替えて、一度ヴェルダンディの様子を見に行く。  医療室から自室へ移動となったため、そちらへと向かった。  ……昨日の魔物はまだたくさんいるのかしら?  わたしは昨日出現した強大な力を持った魔物のことが気に掛かった。  また出くわしたりしないのだろうか。  魔物について詳しいセルランに尋ねた。 「昨日の魔物はよく頻繁に人里にあらわれるのですか?」 「いいえ、デビルが縄張りから出てくることはほとんどありません。それにデビルキングを呼ぶあの手際の良さは普段のデビルにはありません」 「ではどうして昨日は襲ってきたのですか?」 「わかりません。王都の騎士団に事情を話したのでしばらく警戒を強めてくれるそうです。ただ昨日デビルキングの素材が手に入ったのは運が良かったかもしれません」  わたしはあまり素材のことに詳しくないのでよくわからない。  それに気付いたセルランが言葉を付け足す。 「シュティレンツが欲しかった素材だったらしく、素材が手に入れば魔法祭までに何個か新しい魔道具を試せるかもしれないと言っておりました。デビルキングを倒したのはマリアさまですので、マリアさまの許可が必要だと伝えてます」 「まあ、素敵ではないですか。シュティレンツに渡しておいてください。お礼は魔道具を魔法祭で披露することと伝えてくださいね」  わたしは特に素材に興味ないので喜んで提供する。  魔法祭のためならば惜しむ必要はない。  ヴェルダンディの部屋に辿り着き、部屋へと入った。  わたしはベッドまで近付いて様子を見る。  ステラの言う通り包帯で巻かれていた痛々しい姿から傷一つない姿に変わっていた。  わたしは未だ目を覚まさない騎士の頬を触る。 「早く戻ってきなさい」  しばらくその顔を見つめてから、朝食の時間となるのでヴェルダンディの部屋から退出する。  食堂の席に座り、全員で魔力の奉納を終えて食事を摂る。  レティアが嬉しそうにこちらを見ていた。 「どうかしましたか、レティア? 」 「いえ、お姉さまが無事に帰ってきて本当にホッとしました。凶悪な魔物をお一人で倒したとラケシスが興奮して語っておりましたが、お姉さまは帰ってくると気を失っていましたのでやっとお話ができると思って、嬉しく思いまして」 「ラケシス……、でももうあのような凶悪な魔物はこりごりです。わたくには魔物との戦いは向いておりません」  ラケシスがまた誇張の入ったことを言ったのだろう。  みんなが頑張ってくれたから、何とか倒すことができたのだ。  だが周りの生徒たちも少なからず、その誇張に感銘を受けていた。 「マリアさまがデビルキングを倒されたと聞きました。我々騎士もさらなる精進が必要と気付かされました」 「他の領主候補生や当主候補生でもマリアさまのようにお一人であのレベルの魔物を倒した者はおりませんよ」  口々に褒められて少し照れくさくなった。  セルランが強敵というくらいだからかなり強いとは思っていたが、まだまだわたしの想像以上の凶悪な魔物だったようだ。 「それだけではありませんよ。姫さまは自身で水の化身を召喚したのです。あのような魔法は初めて見ました。まさに神に愛されていなければできません」  ラケシスの言葉に、全員が感嘆の声を出す。  全員の前でラケシスを叱るわけにはいかず、わたしは笑ってスープを飲む。  そこでテーブルの隅で食事を摂っているものたちの笑う声が聞こえてきた。  ヨハネの派閥の者たちだ。  わざとらしいその態度にわたしが顔を向けた。 「あら、何か面白いお話だったかしら?」 「いえいえ、マリアさまの素晴らしい活躍に我々も喜ばしい限りです。ただ、主人が前に出ないといけないほど側近が役に立ってないのであれば、次期当主の側近に相応しくないですな」 「我々ですと、もし主人の手を煩わせたら生きていけません」 「良い主人には良い臣下が勝手に付くものですから、マリアさまにもいつかは現れると思います」  遠回しにわたしの器が今の側近のレベルだと言っているのだろう。  だがわたしの側近たちは優秀な者ばかりだ。  わたしは余裕の態度で答える。 「ええ、これからもわたくしの派閥にはどんどん優秀な人間を入れていきますので、集まるでしょう。それにこちらの能力の低さを言う前にあなた方はそんなに成績良かったかしら? 下僕、彼らの成績はどうかしら?」 「全員、何とか平均ですね。中級貴族の僕にすら勝てるのは生まれ持った魔力……、いえ今では僕の方が多いので、財力だけですかね」 「っえ、下僕以下の魔力ですの?」  素直に見くびった声を出してしまった。  仮にも中級よりの上級貴族たちとはいえ、まさか下僕に魔力量で負けているなんて思ってもみなかった。  それに全員が笑いを押し殺していた。  完全に笑っている立場が逆転した。  それに真っ赤な顔で笑っていた者たちが声をあげた。 「嘘をつけ! わたしがお前のような運とごますりで側近になったやつに魔力量で負けるわけがないだろ!」 「嘘も何も、しっかり魔力量検査をしましたので。魔力の鍛錬は調合の練度を上げるために日々頑張っています。今度証明書をお持ちしますが?」  それでヨハネの派閥も静かになった。  めんどくさいので相手をしたくない。  そこでやっといつもの談話が始まった。
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