第一章 魔法祭で負けてたまるものですか

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 魔法祭一日目も終わり夜は久々に家族で食事となった。  王国院内にあるジョセフィーヌ家専用の小さな離宮へと向かった。  わたしも疲れた体をお風呂とマッサージで癒して勝利の余韻に浸りながら、テーブルについて食事を楽しんだ。 「うむ、二人とも王国院で勉学を頑張っており何よりだ。どうやら魔力の訓練も上手くいったようだな」 「はい、お父さまがクロートを遣わしてくれましたので、やっと簡単な魔力操作を覚えられました」 「クロートとピエールも褒めておりましたよ。ここ最近の頑張りは目を見張るものがあると。よく頑張りましたわね」 「お母さま……」  無我夢中で頑張ってきたためあまり実感がなかったが、第三者によって評価されると これまでのこと振り返れる。  最初はただ手紙の言う通りにしただけだが、いつのまにかここまで事が大きくなっていた。  だがここでわたしは夢について思い出した。  ……そういえば次は何が起こると言ってたかしら。また見直しておかないと。  夢の内容は自身で書き留めている。  もし忘れても読み返せるのであとで見ておかなければならないと頭の片隅に置いておく。 「お姉さまの活躍は凄かったですね。あの新しい鎧は空も飛べるとは思っても見ませんでした」 「そうでしょう。速さもわたくしの魔力を使っているから最速の風竜にだって負けないわ」 「鎧……わたしのよろい……」 「娘が頑張っているのだからいつまでも落ち込まないでください」  お父さまはわたしの鎧の話を聞いてブツブツと呟いている。  おそらくこれまでの鎧の常識を壊したことで騎士団にも導入するか考えているのだろう。  わたしも負けてはいられない。  貪欲にわたしの領土の強化に努めなければならない。 「でも、お父さまも人が悪いですわ。クロートのような魔力が高い側近がいるのなら、わたくしも早く魔法の練習ができましたのに」 「そうですよ。お姉さまがどれだけ色々なことを我慢していたかこれまでの行動から推察できます。やっぱり昔のように天真爛漫なお姉さまが一番です」 「ははは、それは済まなかったな。わたしも何で思い付かなかったが不思議なくらいだ」 「ですが、魔力が自由に使えるようになったからと言って慢心はダメですよ。過ぎた力は何を起こすかは分かりません。国を左右する力があるからこそ、五大貴族は在り続けているのですから」  その後も王国院内についての話や実家のことを話して楽しい時間も終わった。  わたしは自室に戻るとリムミントが話があるとのことで時間を作って部屋へと招いた。  紙の束を持って入室してくるリムミントの顔には疲労の跡がみえた。  魔法祭で魔力を使っているのでかなりきついはずだ。 「夜に大変申し訳ございません」 「いいのよ、あなたには試合後も色々してもらっていますから。それでどうしました?」 「まずは今回の被害状況と魔道具の在庫、その他魔法祭関連事項です」  わたしはリムミントから渡された報告書の数々に目を通す。  夜に見るには少しばかり疲れるがわざわざリムミントが持ってきたくらいだ。  かなり大事であることはわかった。  そこで明日参加可能者のリストに目が止まる。 「これほど負傷者が出ていたのですね。明日出られる人数が七割ほどですか。決勝はどこに決まったのですか?」 「決勝の相手はウィリアノスさま率いる王族の領土です」  わたしはウィリアノスさまの名前を聞いて少し気持ちが重くなる。  優勝を目指すのならウィリアノスさまを負けさせること。  もしかしたらウィリアノスさまに嫌われてしまうかもしれない。  そう思っていると、部屋の外がうるさくなっていた。  特に襲撃というわけでもない。  外にはステラとセルランがいるはずなので、夜の時間なら来客は追い返すはずだ。 「一度外の様子を見てきます」  リムミントは一度外の様子を見に行くためにドアを開けると、下僕の声がきこえてきた。 「下僕?」  わたしがドアを開けてみると、三人によって下僕は怒られていた。  この時間に淑女の部屋に来ることはあまりよろしくない。  それで下僕は怒られているようだ。 「どうかしましたか?」 「マリアさま!? いえ下僕がどうしてもマリアさまに話したいことがあると聞かなくて。明日にするようにキツく言っておきますので、何も心配なさらず」 「そうです。婚約者がおられる姫さまにあらぬ噂を流されてはなりません。下僕も最近は目を見張る働きをしていますが、あまり増長しないように。ただでさえあなたは他の貴族から疎まれているのですから」 「わかっています。ですがどうしても今伝えておかないといけません。マリアさま少しだけお時間ください」  セルランとステラに怒られながらも焦っているようでなかなか引こうとしない。  利口な下僕が常識的行動を破ってまで何かを伝えようとしているのだ。  聞いておいたほうがいいだろう。 「いいでしょう。ですが今後はこのようなことをしないように」  念のために主人として注意はしておく。  三人も仕方ないと顔をしているが今日のこの場は見逃してくれるようだ。  夜にわたしの部屋に二人で入るのはどうかということもあり、内容も短いようなので立ち話になった。  三人の側近がいる前で話すならとセルランから許可もおりた。  下僕はわたしに一封の手紙を渡してきた。 「ウィリアノスさまから手紙を頂き、どうしても今日中に届けてほしいとのこと」 「ウィリアノスさまのですか!」  わたしは下僕から手紙を受け取りその場で封をあけて読んだ。  そこにはかなり長い神への感謝が書かれていた修飾の多い文であったが、要約すると明日の試合では手加減なく全力で戦いたいと書かれていた。  ……ウィリアノスさまは本がお好きなのかしら? ここまで情緒的な手紙を送ってくださるなんて。  ウィリアノスはかなり武に力を入れているので、あまり本のような文学的な物は好まないと思っていた。  だがこの手紙を読むとそれは間違いだったと気付かされた。  わたしの好きな本の好きな一文も入っているので、前にわたしが話したことを聴いててくれたようだ。  てっきり上の空だと思っていたが、ウィリアノスの照れ隠しなのだろうと納得した。  これでわたしに迷いはない。 「ありがとう下僕。さあリムミント、明日の作戦を立てますわよ!」 「は、はい!」  わたしが部屋の扉を閉める瞬間に下僕とセルランが二人でどこかへ行く。  珍しい組み合わせだが、女性の多いこの階層で下手に騒ぎになってはいけないので、セルランが証拠人として付いていったのだろう。  わたしは楽観的にそう考えた。
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